ドナルド・トランプ前大統領が、カマラ・ハリス副大統領を侮辱する言葉で呼んだという報道は、大きな波紋を広げています。特に、知的に障害のある方々やそのご家族にとっては、決して看過できない発言と言えるでしょう。この記事では、トランプ氏の発言が持つ意味、そして知的に障害のある人々が社会でどのように活躍しているのか、改めて考えてみたいと思います。
「知恵遅れ」という言葉の本当の意味
トランプ氏が使った「知恵遅れ」という言葉。その語源を辿ると、15世紀のラテン語「retardare」に行き着きます。「隠す」「妨げる」という意味を持つこの言葉が、現代社会において、人を侮辱するために使われるべきではありません。アメリカには700万人もの知的に障害のある人々が暮らしており、彼らは社会に隠れることなく、積極的に社会参加しています。
ダウン症のきょうだいとカメラに笑顔を見せる筆者(右)
知的に障害があっても輝く人生
私の弟もダウン症です。彼はカリフォルニア州ベンチュラで、充実した日々を送っています。スペシャルオリンピックスで様々なスポーツを楽しみ、仕事を持ち、YMCAの会員として活動し、地元のピザ屋での交流会にも参加しています。長年のパートナーもいて、地域ボランティアにも積極的に参加するなど、社会の一員として輝いています。
ある時、彼はボランティア活動中に「知恵遅れ」と呼ばれ、相手に空手の蹴りを入れてしまったそうです。暴力は決して肯定できませんが、彼の悔しさ、怒りは想像に難くありません。
知的に障害のある人々の声に耳を傾けて
私は現在、『ダウン症だと声を大にして言う:障害についての考えが変わる20+の物語』という本を執筆中です。弟をはじめ、24人の知的に障害のある方々にインタビューを行い、彼らの経験や思いを綴っています。
取材を通して、スペシャルオリンピックスの「Spread the Word to End the Word」(言葉を広めて言葉を終わらせよう)キャンペーンを知りました。人気ドラマ『Glee』の出演者も参加するこのキャンペーンは、「Rワード」を使わないように訴えかけています。トランプ氏はこのキャンペーンのことを知らないのでしょうか?
全米ダウン症協会で活躍するケイラ・マッキオンさん、臓器移植差別防止法成立に尽力したシャーロット・ウッドワードさん、ダウン症の声優として活躍するジャレッド・コーザックさん、ダウン症の俳優としてアカデミー賞授賞式でプレゼンターを務めたザック・ゴッツァーゲンさん。彼らのような素晴らしい人々の存在を、トランプ氏は知っているのでしょうか?
過去の過ちを繰り返さないために
50歳を超えた私の弟やその両親、友人たちは、かつての社会の無理解を身をもって経験しています。1975年、弟が生まれた時、医師は母に施設入所を勧めました。当時、ニューヨークのウィローブルック州立学校の実態が暴露されたばかりでしたが、それでもなお、知的に障害のある人々への偏見は根強く残っていました。
もしトランプ氏が再び大統領に選出されたら、社会は、多様性を認めず、少数者を排除する暗黒時代へと逆戻りするかもしれません。
SNSが生み出す新たな希望
幸いなことに、SNSは知的に障害のある人々に発信の場を与え、彼らの存在を社会に知らしめる役割を果たしています。多くのフォロワーが彼らを応援し、称賛の声を上げています。
知的に障害のある人々は、差別や偏見に負けず、様々な分野で活躍しています。少年野球、高校、大学、そして社会で、彼らは自分たちの個性を尊重し、輝きを放っています。
静かで、優しさと思いやりに満ちた彼らの生き方は、私たちに多くのことを教えてくれます。それは、トランプ氏には理解できないことかもしれません。