ポンペイ遺跡。ベスビオ山の噴火により灰に埋もれた古代都市は、今もなお多くの謎を秘めています。今回、最新のDNA分析技術を用いた研究により、これまで定説とされてきたポンペイの人々の関係性や祖先、そして性別に関する認識が覆される驚くべき発見が明らかになりました。この記事では、古代ローマの人々の生活に新たな光を当てる、最新の研究成果をご紹介します。
噴火の悲劇とタイムカプセル
西暦79年、ベスビオ山の噴火は、古代ローマの都市ポンペイを一瞬にして灰燼に帰しました。高温の火山ガスと火山灰は街を覆い尽くし、多くの人々が命を落としました。しかし、皮肉にもこの火山灰は街全体を覆い、まるでタイムカプセルのように当時の様子を現代に伝える貴重な役割を果たしました。
1748年に始まったポンペイ遺跡の発掘調査は、1863年に考古学者ジュゼッペ・フィオレッリが石膏を用いた遺体保存技術を開発したことで大きく進展しました。火山灰の中で分解した遺体の空洞に石膏を流し込むことで、104体もの遺体の型が保存され、当時の様子を鮮明に映し出すことになりました。
ポンペイ遺跡で発見された遺体の石膏型
従来の解釈とDNA分析による新事実
これまで、遺体の姿勢や持ち物から様々な物語が推測されてきました。例えば、ブレスレットを着け、子どもを抱いた大人の遺体は母親と子ども、集団で見つかった遺体は姉妹だと考えられてきました。しかし、最新のDNA分析技術を用いた研究により、これらの推測が覆されようとしています。
石膏型から回収された骨片のDNA分析により、これまで親子や姉妹と推測されていた遺体同士に血縁関係がないことが判明しました。この研究成果は、カレント・バイオロジー誌に掲載され、ポンペイの人口構成や人間関係に関する従来の理解を大きく変えるものとして注目を集めています。
ハーバード大学の遺伝学者、デービッド・ライク教授の見解
ハーバード医科大学遺伝学教授であり、同大学人類進化生物学教授でもあるデービッド・ライク氏は、今回の研究について「今回の科学的データは、これまでの一般的な想定とは必ずしも一致しない。性別や家族関係に関する従来の推測に疑問を投げかけるものだ」と述べています。
例えば、ある2体の遺体は、長年母子だと考えられてきましたが、DNA分析の結果、男性2人であることが判明しました。これは、古代ローマ社会における家族のあり方やジェンダー観を再考する上で重要な示唆を与えています。
長年母子だと考えられていた2体の遺体
古代ローマ人の暮らしに迫る新たな一歩
今回の研究は、DNA分析技術が古代社会の研究に新たな可能性をもたらすことを示す好例です。ポンペイ遺跡の更なる調査と分析により、古代ローマ人の暮らしや文化、そして人間関係に関するより深い理解が得られることが期待されます。 今後の研究の進展に注目が集まります。
