中国で「パンダ虐待」デマが拡散、保護施設が異例の声明発表 – 過激ファンの暴走とフェイクニュースの危険性

愛らしい姿で世界中の人々を魅了するパンダ。特に中国ではその人気が過熱し、社会現象となることも少なくありません。しかし近年、この熱狂的な「パンダフィーバー」が思わぬ方向へと暴走し、虚偽情報が拡散されるという異常事態が発生しました。「パンダ虐待」という衝撃的なデマがインターネットを通じて瞬く間に広がり、これに対しパンダの保護施設が異例の声明を発表するまでに至りました。本記事では、この騒動の詳細と、フェイクニュースの背後に潜む目的、そして過激な「ファン文化」の危険性について深く掘り下げていきます。

過熱するパンダ人気と「ファン文化」の暗部

日本から中国に返還されたパンダたちは、その到着が速報で報じられるなど、現地で熱烈な歓迎を受けました。多くの人々に愛され、その一挙手一投足が注目されるパンダですが、この過熱した人気が時に問題を引き起こすことがあります。

2025年7月25日、「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」は、「『愛』を名目にした過激行為や、違法行為に断固反対。『ファン文化』反対」という異例の声明を発表しました。ここでいう「ファン文化」とは、日本のアイドルファン文化とは異なり、誹謗中傷や嫌がらせといった行き過ぎた行為、そしてそれを助長するファンの行動全体を指しています。愛する対象を守るという名目のもと、現実離れした行動に走る一部の過激なファンが、社会問題となっているのです。

中国でパンダフィーバーが過熱する様子中国でパンダフィーバーが過熱する様子

「虐待デマ」が引き起こした職員への嫌がらせ

保護研究センターが声明を発表した背景には、「研究機関と職員がパンダを虐待し、利益のために搾取している」「研究機関の職員が違法行為で逮捕された」といった根も葉もないデマが広まったことがあります。これらの虚偽の情報は瞬く間にインターネット上で拡散され、一部の過激なパンダファンを扇動しました。

その結果、事態は深刻なものへと発展しました。デマを信じたファンたちは、保護研究センターの職員に対し、SNSでの誹謗中傷、殺害予告、さらには嫌がらせの電話を繰り返し行い、職員の業務を著しく妨害したといいます。パンダの安全と健康を守るために尽力する職員たちが、心ない言葉や脅迫にさらされるという、許しがたい状況が生み出されたのです。

パンダファンによる過激な行為に対して異例の声明を発表する保護研究センターパンダファンによる過激な行為に対して異例の声明を発表する保護研究センター

デマ拡散の裏にある「人気と経済的利益」

こうした「パンダ虐待」デマを拡散させた犯人たちは、一体どのような目的を持っていたのでしょうか。捜査の結果、2023年3月から2024年5月にかけて、虚偽の情報と知りながらこれを拡散し、騒動を引き起こしたとして、ネットブロガーの女とその夫が逮捕され、それぞれ懲役1年6か月、懲役1年2か月の判決が言い渡されました。

2人のデマ拡散の手口は巧妙でした。彼らはSNS上でパンダの飼育に関して抗議活動を呼びかけている人々から提供された映像を入手し、それを悪意を持って編集・加工しました。パンダが少し疲れて見える瞬間や、虐げられているように見える表情を意図的に切り取り、加工することで、「虐待されている」かのような印象を与える動画を作成し、インターネット上に投稿したのです。

SNS上でパンダ虐待のデマが拡散された手口を示すイメージSNS上でパンダ虐待のデマが拡散された手口を示すイメージ

彼らの真の目的は、パンダへの「愛」ではなく、自己の人気と経済的利益を得ることにありました。拡散した動画に対する投げ銭や寄付金として、およそ400万円もの大金を集めていたことが明らかになっています。無責任なデマによって人々の感情を煽り、自身の懐を肥やすという、非常に悪質な手口です。

デマ拡散の目的が人気獲得や経済的利益であったことを示唆するイラストデマ拡散の目的が人気獲得や経済的利益であったことを示唆するイラスト

結論

中国で発生した「パンダ虐待」デマ騒動は、インターネットにおける情報操作の危険性と、一部の過激な「ファン文化」が引き起こす負の側面を浮き彫りにしました。愛する対象への関心が、時に盲目的な行動や虚偽情報の拡散へと繋がり、無関係な人々を傷つけ、社会に混乱をもたらすことを示唆しています。私たち一人ひとりが情報の真偽を見極めるリテラシーを持ち、感情に流されずに冷静な判断を下すことの重要性を再認識させられる事件と言えるでしょう。

参考文献