映画『トップガン マーヴェリック』が地上波初放送され、大きな話題となりました。トム・クルーズ演じるマーヴェリックの活躍はもちろんのこと、F-14戦闘機「トムキャット」の再登場に胸を熱くしたファンも多いのではないでしょうか。特にラストの手に汗握る脱出シーン、あの「某国」にF-14があったことには驚かれた方もいるかもしれません。実はこれ、ただの偶然ではなく、歴史的背景に基づいた設定なのです。
F-14戦闘機、イランで現役稼働の謎
映画の設定上「某国」とされていますが、これはイラン共和国がモデルと考えられています。驚くべきことに、2006年にアメリカ海軍から全機退役したF-14が、イランでは現在も現役で運用されているのです。なぜアメリカと緊張関係にあるイランがF-14を保有しているのか、その背景にはイランとアメリカの複雑な歴史が隠されています。
親米政権時代の遺産
1970年代、親米路線だったパフラヴィー国王統治下のイランは、空軍力強化のためアメリカから最新鋭戦闘機F-14を導入しました。国王自身が大の戦闘機マニアだったという逸話もあり、F-14はその目に適ったのでしょう。こうして79機のF-14がイランに配備されました。
F-14戦闘機
イラン革命とF-14の国産化
しかし1979年、イラン革命が勃発。親米政権は崩壊し、イランとアメリカの関係は悪化の一途を辿ります。アメリカの支援を失ったイランは、F-14の部品やミサイルを独自開発し、国産化に成功。この独自改良型F-14は「トムキャット」をもじって「ペルシャ猫」と呼ばれるようになりました。航空軍事アナリストの佐藤一郎氏(仮名)は、「イランのF-14国産化は、当時の国際情勢を鑑みると驚くべき偉業と言えるでしょう」と語っています。
ペルシャ猫、驚異の戦果
2017年のデータでは、最大40機程度のF-14がイランで現役稼働していると推定されています。1980年から1988年のイラン・イラク戦争では、イラン空軍のF-14は目覚ましい戦果を挙げ、イラク空軍機を159機も撃墜したと言われています。中には11機撃墜のエースパイロットも誕生しました。
トップガン マーヴェリックとF-14の必然的出会い
このように、イランにおけるF-14の存在は歴史的事実に基づいています。『トップガン マーヴェリック』のラストシーンで、マーヴェリックとルースターがF-14で脱出できたのも、この設定があればこそ。まさに必然的な出会いだったと言えるでしょう。
マーヴェリックとルースター
F-14戦闘機:アメリカとイラン、対照的な運命
アメリカ海軍では戦闘機4機とヘリコプター1機を撃墜したF-14ですが、既に退役済み。一方、イランでは現在も現役で活躍を続けています。皮肉にも、かつてアメリカ海軍の象徴だったF-14は、今やイラン空軍の主力戦闘機として、独自の進化を遂げているのです。
『トップガン マーヴェリック』は、エンターテイメント性だけでなく、国際情勢や軍事史の一端を垣間見ることができる作品でもあります。F-14「ペルシャ猫」の物語は、映画の興奮をさらに深めてくれるでしょう。