新型コロナ病床確保事業:補助金の適正性と日本の診療報酬制度の課題

医療崩壊を防ぐため、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、政府は多額の財政支出を行いました。中でも病床確保事業への補助金は巨額に投じられましたが、その適正性について議論が巻き起こっています。本稿では、会計検査院の調査結果を踏まえ、病床確保事業における補助金の課題、そして日本の診療報酬制度の根本的な問題点を探ります。

病床確保補助金の現状:効果と課題

会計検査院の調査によると、病床確保事業の補助金は医療機関の収支改善に繋がっていたことがデータで裏付けられています。確保病床と休止病床に対して1日当たり最大43万6000円の補助金、そして患者受け入れ時には1ベッド当たり1500万円が支給されました。この補助金により、多くの病院の収支は改善されたものの、その単価設定の根拠は曖昧でした。

病床確保事業に関するイメージ画像。空いている病室に医療機器が設置されている。病床確保事業に関するイメージ画像。空いている病室に医療機器が設置されている。

補助金の趣旨は、コロナ患者を受け入れることで通常の診療報酬が得られなかった場合の機会損失を補填することでした。しかし、算定方法が明確でなかったため、ほとんどの病院が最高額の単価で申請していました。

専門家の見解

医療経済学の専門家である山田一郎氏(仮名)は、「病床の価値や補償額については、通常の診療報酬を基に、より精緻な基準を設けるべきだった」と指摘します。「緊急事態とはいえ、厚生労働省はより正確な計算が可能だったはず」と、パンデミック以前からの準備不足を批判しています。

診療報酬体系の根本問題

病床確保事業の補助金の問題は、日本の診療報酬体系そのものの問題を浮き彫りにしました。病床には一定の金額が設定され、診療報酬は診療行為に対して支払われますが、医師や看護師への分配方法は各医療機関の裁量に委ねられています。

このため、コロナ対応に従事する医療従事者の報酬が大幅に増えた医療機関もあれば、逆に患者を受け入れることで赤字に陥った医療機関もあったと考えられます。適正な利益率や報酬について、厚生労働省はパンデミック以前から検討しておくべきだったと言えるでしょう。

ケーススタディ:国立病院機構の黒字と防衛費

国立病院機構はコロナ禍で黒字を計上しましたが、その一部が防衛費に転用されたことが明らかになりました。補助金を受け入れた結果、医療系独立行政法人で積立金が増加し、その余剰金が防衛財源に回されたのです。

医療従事者のイメージ画像。医師と看護師が話し合っている。医療従事者のイメージ画像。医師と看護師が話し合っている。

これは、国民の税金がどのように使われているのか、より厳しく監視していく必要性を示唆しています。

今後の展望:パンデミックへの備え

次のパンデミックに備え、病床確保事業の補助金については、明確な算定方法を確立することが重要です。患者1人を受け入れるごとに医師や看護師に支払う報酬、そして病院の取り分を考慮した上で、妥当な補助金額を算定する必要があります。

また、日本の診療報酬体系についても、抜本的な見直しが必要となるでしょう。医療現場の公平性と持続可能性を確保するため、関係者間の議論を深め、より透明性の高い制度を構築していくことが求められます。