結婚持参金「ダウリ」をめぐる悲劇が、再びインド社会を揺るがしています。夫側から妻側への虐待が問題視される中、逆のパターンで男性が自殺するという痛ましい事件が発生し、波紋を広げています。今回は、この事件を通して、複雑化するダウリ問題の実態に迫ります。
ダウリとは?根深い悪習の実態
ダウリとは、インドにおける結婚の際に、妻側が夫側に金品などの財産を持参する習慣です。法律では禁止されていますが、依然として社会に根深く残る悪習となっています。ダウリが少なかった場合、妻側が夫側からの嫌がらせを受けるケースが後を絶たず、深刻な社会問題となっています。インド国家犯罪記録局の統計によると、2022年にはダウリ関連で約6500人の女性が死亡しています。
ダウリの儀式
事件の概要:技術者の男性が自殺、告白ビデオが波紋
2024年9月、インド南部カルナタカ州ベンガルールの技術者、アトゥル・スバーシュさん(34)が自殺するという事件が発生しました。スバーシュさんは自殺前に、「インドでは今、男性に対する法的大虐殺が起きている」とのメッセージと共に、別居中の妻とその親族から嫌がらせを受けていたと主張する約80分の告白ビデオをSNSに投稿していました。このビデオは瞬く間に拡散され、大きな反響を呼びました。
遺書と告訴状:男性側の主張
スバーシュさんは24ページの遺書も残しており、妻から9件の不当な訴訟を起こされ、殺人やダウリに関する嫌がらせ、性行為に関連した内容で告訴されていたと記していました。また、スバーシュさん側は、妻らが和解金として3千万ルピー(約5400万円)を要求し、息子との面会と引き換えに300万ルピーを要求したと告訴しています。地元警察は、逃亡中の妻とその親族を自殺教唆と恐喝容疑で逮捕しました。
インドの裁判所
妻側の主張:夫からのDV被害を訴える
一方、妻側は一貫して告訴内容を否定しています。結婚時にスバーシュさん側が受け取ったダウリに不満を示し、さらに100万ルピーを要求してきたと主張。また、妻はスバーシュさんから身体的、精神的虐待を受けていたと訴えており、泥酔して暴力を振るうこともあったと証言しています。さらに、妻の父親はダウリ要求によるストレスで健康状態が悪化し、亡くなったと主張しています。
ダウリ問題の複雑化:専門家の見解
「今回の事件は、ダウリ問題の複雑さを改めて示しています」と、インドの社会問題に詳しいラーマ・チャンドラン教授(仮名)は指摘します。「従来、ダウリ問題は夫側からの妻側への虐待という構図で語られてきましたが、近年は妻側からの告発が増加しており、事案の真相解明がより困難になっています。双方の主張を慎重に検証し、公正な判断を下す必要があります。」
今後の課題:ダウリ問題の解決に向けて
今回の事件は、ダウリ問題が依然として深刻な社会問題であることを浮き彫りにしました。ダウリ撲滅に向けた啓発活動の強化はもちろんのこと、法整備や司法制度の改善など、多角的なアプローチが必要とされています。真の男女平等を実現するために、インド社会全体でこの問題に取り組んでいく必要があるでしょう。