子どもの教育、特に学力向上は多くの親にとって最大の関心事でしょう。今回は、ベストセラー『「学力」の経済学』の著者、中室牧子氏の最新刊『科学的根拠（エビデンス）で子育て』から、学力と人生の成功にまつわる驚くべき研究結果をご紹介します。
学内順位が将来を左右する？「鶏口牛後」の真実
「少しでも偏差値の高い学校へ」と願う親御さんは多いはずです。しかし、世界中の研究データが示す真実は、必ずしもそうではないようです。
同じ学力でも、順位が人生を変える
想像してみてください。AさんとBさんは同じ学力。Aさんは難関校にギリギリ合格し最下位、Bさんは一つ下のレベルの学校でトップになりました。さて、その後の人生で有利なのはどちらでしょうか？
小学校の学力と学内順位の関係
答えはBさん。「鶏口となるも牛後となるなかれ」は真実だったのです。埼玉県の公立小中学校の学力調査データを用いた研究（五十嵐浩二氏、伊藤寛武氏、中室牧子氏）でも、小学校で同じ点数でも学内順位が上位の子は、中学校で数学・国語ともに偏差値が2.1～6.2も高くなるという結果が出ています。
井の中の蛙効果：身近な人との比較が鍵
これは「井の中の蛙効果」と呼ばれる現象で、身近な人と比べて自分の能力を過大評価または過小評価してしまう心理が影響しています。上位にいることで自信がつき、学習意欲も高まるのでしょう。
この現象は日本だけでなく、イギリス、アメリカ、中国でも同様の結果が報告されており、普遍的なものと言えます。
小学校の順位が将来の年収にまで影響？
驚くべきことに、小学校の学内順位は、中学校以降の学力だけでなく、最終学歴や将来の年収にも影響するという研究結果が出ています。
テキサス州の研究：順位と年収の相関関係
テキサス州の300万人規模の調査では、小学3年生の学内順位が、大学進学率、そして23～27歳時点の年収にまで影響することが明らかになっています。同じ点数でも、クラスで最下位の子は、順位が真ん中の子に比べて年収が約18万～38万円も低いという結果です。
順位の影響は多岐にわたる
さらに、高校の成績順位は、53歳時点の年収だけでなく、喫煙、飲酒、性行為、暴力行為などの生活習慣や、勤勉性などの性格、メンタルヘルスにも影響するという研究結果も出ています。
まとめ：子どもの成長を支えるために
学力はもちろん大切ですが、子どもの自己肯定感を高め、学習意欲を促進するためには、順位も重要な要素であることが分かりました。周囲の環境や、子ども自身の感じ方にも配慮しながら、最適な学習環境をサポートしていくことが重要と言えるでしょう。
参考文献：
- 五十棲浩二・伊藤寛武・中室牧子「日本における『小さな池の大魚効果』：校内順位の高さは学力向上をもたらすか」『日本経済研究』80号、57-85頁、2022年
- Murphy, R., ＆ Weinhardt, F. (2020). Top of the class: The importance of ordinal rank. Review of Economic Studies , 87(6), 2777-2826.
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