相続した土地の活用に悩んでいる方は少なくないでしょう。特に地方では、利用価値の低い土地を相続し、管理に頭を悩ませるケースが増えています。そんな中、2023年4月に創設された「相続土地国庫帰属制度」は、不要な土地を国に引き取ってもらえる画期的な制度として注目を集めました。しかし、現実は厳しいようです。本記事では、長野県の実例を交えながら、制度の実態と活用のポイント、そして専門家の意見を交えて詳しく解説します。
相続土地国庫帰属制度、長野県での申請状況は?
長野県では、制度開始から2024年11月までの約1年半で61件の申請がありましたが、実際に国有化されたのはわずか17件(27.9%)にとどまっています。これは全国的な傾向でもあり、同期間の申請3008件に対し、国有化されたのは1089件(36.2%)です。なぜ、これほど国有化が難しいのでしょうか?
市川さんが相続した土地の様子。雑草が生い茂り、管理に苦労している様子がわかる。
制度利用の壁、厳しい審査要件とは?
国庫帰属制度には、18項目もの審査要件が設けられています。例えば、「建物がない」「債務の担保になっていない」「他人が使用する権利が設定されていない」などです。さらに、法務局職員による実地調査も行われ、審査には約8ヶ月を要します。承認されれば、10年分の管理費用として原則20万円の負担金を国に納める必要があります。
全ての要件をクリアする必要性
長野地方法務局国庫帰属審査室によると、「一つでも該当しない項目があると承認できない」とのこと。例えば、通路や水道用地として利用されていたり、境界が不明確な土地は却下される可能性が高いです。また、崖や工作物、樹木など、管理に多額の費用や労力がかかる土地も承認されません。
専門家の声:制度活用の難しさ
長野県司法書士会の小林雅希会長は、相続手続きや国庫帰属制度に関する相談を多数受けていますが、実際に申請まで至った例は少ないと語ります。「要件の厳しさから、説明を聞いて諦める方がほとんどです。特に山林は境界が曖昧で、要件を満たしにくい」と指摘しています。土地評価のプロである不動産鑑定士の山田一郎氏(仮名)も、「境界確定測量は費用も時間もかかるため、制度利用の大きなハードルとなっている」と述べています。
制度活用のためのポイント
厳しい審査要件をクリアするためには、事前の準備が不可欠です。境界の明確化、工作物の撤去、樹木の伐採など、必要な手続きを事前に済ませておくことが重要です。専門家への相談も有効です。司法書士や土地家屋調査士に相談することで、スムーズな申請手続きを進めることができます。
まとめ:相続土地問題解決への一歩
相続土地国庫帰属制度は、不要な土地を処分するための有効な手段となり得ますが、現状では審査要件が厳しく、活用が難しいのが実態です。制度を適切に活用するためには、事前の準備と専門家への相談が不可欠です。土地の有効活用、相続対策について、より深く検討していく必要があると言えるでしょう。