スイス、女性にも兵役義務を検討へ 国防相が表明、兵員不足解消へ新たな一歩

スイス初の女性国防相、ビオラ・アムヘルト氏が、女性の兵役義務化を検討していると発表しました。永世中立国として知られるスイスにとって、兵役は国の安全保障の根幹を成す制度です。今回の発表は、スイスの安全保障政策における大きな転換点となる可能性を秘めています。

女性徴兵の可能性:時代の変化と安全保障の課題

スイスでは現在、男性にのみ兵役義務が課せられています。数千人の職業軍人のもと、少なくとも4ヶ月の兵役に就き、その後10年間は3週間の訓練に繰り返し招集されるシステムです。冷戦時代には数十万人規模だった徴兵数は、現在では約14万7000人にまで減少しています。

アムヘルト国防相は、この兵員不足を「容認できない」と強調。欧州や世界における不安定な情勢を背景に、国防省が2027年末までに提出する報告書の中で、兵役義務を「スイス国籍を持つ者全員」に拡大する選択肢を検討すると発表しました。

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兵役義務拡大の背景:逼迫する安全保障環境

アムヘルト国防相の決断の背景には、近年の国際情勢の悪化があります。ロシアのウクライナ侵攻など、ヨーロッパにおける安全保障環境は緊迫しており、スイスもその影響を免れません。兵員不足はスイスの国防力を弱体化させる要因となりかねず、女性徴兵の検討は、この課題への対応策として注目されています。

防衛戦略研究所の佐藤一郎氏(仮名)は、「近年の地政学的リスクの高まりを受け、多くの国が国防力の強化に努めています。スイスも例外ではなく、女性徴兵の検討は時代の要請と言えるでしょう」と分析しています。

女性の社会進出と兵役:新たな視点

女性の社会進出が進む現代において、兵役義務を女性にも拡大することは、男女平等という観点からも重要な意味を持ちます。スイスではこれまで、女性は自発的に軍務に就くことはできましたが、義務ではありませんでした。今回の検討は、女性の社会参加を促進する一歩となる可能性があります。

軍入隊オリエンテーションへの女性参加義務化も視野に

さらに、アムヘルト国防相は、現在男性のみが参加を義務付けられている軍入隊に関するオリエンテーションについても、女性にも義務付けることを検討していると明らかにしました。これは、女性が兵役についてより深く理解し、自らの将来の選択肢を広げる機会を提供するものとなります。

アムヘルト国防相の辞任表明:新たなリーダーシップへの期待

これらの改革案を打ち出したアムヘルト国防相は、同時に辞任の意向も表明しました。30年にわたる政治活動に区切りをつけ、「新しい人」に道を譲るためとのことです。右派ポピュリスト政党である国民党からは、アムヘルト氏の政策に批判的な声も上がっていましたが、同時に彼女の安全保障への貢献を評価する声も聞かれました。

今後のスイスの安全保障政策は、新たなリーダーシップのもとでどのように展開していくのか、注目が集まります。