上海、かつて中国経済の心臓部として世界中から注目を集めていたこの国際都市は、今、大きな変貌を遂げている。コロナ禍終息後も経済回復の兆しは見えず、不動産市場の崩壊、若者の失業率の増加など、深刻な不況が影を落としている。昨年12月に上海を訪れた筆者は、その変わりゆく街並みに驚きを隠せなかった。かつての活気はどこへ消え、人々の生活はどのように変化しているのか、現地の様子をレポートする。
失われた活気と静まり返った街
2500万人を擁する大都市・上海。かつては東京に匹敵する唯一の都市と称され、活気に満ち溢れていた。しかし、久しぶりに訪れた上海は、想像をはるかに超える静寂に包まれていた。街全体から活気が失われ、人通りもまばらになっている。観光スポットには国内からの観光客の姿も見られるが、中心部の多くの通りは人影が少なく、かつての賑やかさは見る影もない。
上海の静かな通り
コロナ前から上海と日本を頻繁に往来していた日本人駐在員からも、「街の人出が明らかに減った」という声が聞かれる。経済学者である山田一郎氏(仮名)は、「中国経済の減速は、消費活動の停滞に直結している。上海の街の静けさは、その象徴と言えるだろう」と分析している。
再開発と空洞化のジレンマ
この変化の背景には、政府主導の都市再開発がある。古い住宅の立ち退きが進み、住民は郊外への移住を余儀なくされている。かつて生活感に満ちていたエリアは、今や静まり返り、家々の扉はセメントで固められ、コンクリートの壁となっている。壁面には花や動物の絵が描かれたり、カラフルなポスターが貼られたりしているが、夜になると薄暗い街灯の下で、寒々しい雰囲気が漂う。このような光景は、市内の好立地なエリアで広範囲に見られる。
不動産バブル崩壊の影響
なぜここまでの立ち退きが行われているのか。地元住民によると、政府は古い住宅を更地にして新しい建物を建設し、土地の価値を高める計画だったという。同時に、雑居地区の住民の居住環境を改善する目的もあったようだ。しかし、不動産市場の低迷により再建計画は停滞し、何年も放置されたままの地区が多く存在する。不動産コンサルタントの佐藤花子氏(仮名)は、「中国の不動産バブル崩壊は、地方政府の財政を圧迫し、都市開発計画にも大きな影響を与えている」と指摘する。
繁華街の衰退と老舗百貨店の閉店
繁華街の変化も顕著だ。銀座や表参道に相当する南京西路や淮海中路でも、多くの店舗が閉店し、空き店舗が目立つ。ガラス扉には鎖が掛けられ、かつての賑わいは失われ、殺伐とした雰囲気が漂っている。2024年には伊勢丹や高島屋が撤退したほか、地元の老舗百貨店である「太平洋百貨」や「梅龍鎮広場」も相次いで閉店した。実店舗の減少に伴い、人通りも激減している。
スタバの閉店が象徴するもの
上海の象徴的な待ち合わせスポットとして24年間親しまれてきた「スターバックス新天地店」の閉店も、上海の現状を象徴していると言えるだろう。新天地の入り口に位置し、タクシーの乗降場所としても重宝されていたこの店舗は、昨年12月31日に営業を終了した。閉店前は、多くの市民が別れを惜しんで訪れていた。
コーヒー市場の激変とスタバの苦戦
上海は世界一のカフェの数を誇る都市だが、近年、コーヒー市場では大きな変化が起きている。中国国内ブランドの瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)や庫迪珈琲(コッティコーヒー)などの新興チェーンが台頭し、9.9元(約220円)という低価格戦略で激しい競争を繰り広げている。オフィスビルやショッピングモールに入っていたスターバックスは相次いで閉店し、かつての高層オフィスビル1階にビジネスマンたちが行列を作っていた光景は、過去のものとなっている。
かつて活気に満ち溢れていた上海は、今、大きな転換期を迎えている。経済低迷の影響は街の隅々にまで及んでおり、人々の生活にも変化が生じている。今後の上海の行方が注目される。