弁護士の大久保修一さんは、学校法人を不当に解雇された職員から相談を受けたことがある。大久保さんは「職員を解雇するには合理的な理由が必要だが、世の中にはとんでもない理由でクビにしようとする法人がある」という――。
※本稿は、ブラック企業被害対策弁護団『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を再編集したものです。
■「今日があなたの定年退職日です」で即日解雇
あるところに、幼稚園と小学校を運営する学校法人があった。そこで働く2人が、今回の当事者である。
1人は幼稚園の園長のAさん。そして、もう1人は事務局の事務長のBさん。Aさんは、園長さんの業務と並行して、幼稚園児の保育に携わる日々。Bさんは、少し前から、幼稚園や小学校の事務長さんとして働くようになり、幼稚園児を温かく見守りながら仕事に励んでいた。
すると、ある日2人は、こんな趣旨のことを言われる。
「Aさん、あなたはもう高齢だから、幼稚園の園長さんは任せられない。定年ということで、今日、退職してもらうことが理事会で決まりました」
「Bさん、あなたは試用期間中だったんだけれど、本採用しないことになりました。不採用ということで、Aさんと同じく退職してもらうことが理事会で決まりました」
そう。2人は、いきなりクビにされてしまったのである。2人は、突然のことに驚いたが、ちゃんとした説明もなくいきなりクビにされて納得することができず、弁護士に相談することにした。
これが本件のあらましである。
■定年退職を装った即日解雇
相談を受けて話を聞いたところ、先述したように、Aさんについては「定年退職」、Bさんについては「試用期間中の採用拒否」ということで退職させていたことがわかった。そのうえで、就業規則を精査すると、この学校法人における通常の教職員の定年は、60歳(65歳までの継続雇用制度あり)とされているが、園長の定年については、特別な管理職であることを考慮して、通常の教職員の定年の規定は適用せず、「理事長が決定した日を定年とすることができる」と定めていることもわかった。
今回のAさんの場合、学校法人が一方的に定年日を当日と設定して、その日のうちに退職させたということになるので、定年退職を装った即日解雇であると整理することにした。