東京・歌舞伎座で11月1日に初日を迎える「吉例顔見世大歌舞伎」で、音羽屋ゆかりの世話物「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」の“粋な小悪党”髪結新三(かみゆいしんざ)を演じる七代目尾上菊五郎が作品への思いを語った。
髪結新三は世話物(庶民を題材にした作品)の中でも、さらに写実味の強い生世話(きぜわ)と呼ばれ、江戸の下町情緒あふれる作品。「大好きな芝居。よくできていて、(登場人物が)みんなよく書けている。人間が生き生きしている」と語った。
「どんなところをとっても江戸っ子になるように、きざっぽいというか、こういう人だったのでないかという所を演じられれば」と意気込む。また、黙阿弥の七五調の名ぜりふや時代物的なせりふ回しが入るのも見どころ。「世話物だけど、歌舞伎の味がしないとね」と話す。
菊五郎の祖父、六代目菊五郎のまな弟子だった二代目尾上松緑から役作りを学んだという。「(二代目松緑の)お宅で食事をしていると、話が出てくるのは新三だった。手取り、足取りはなかったが、新三という人間をそこで作らせてもらった」と振り返った。
「『象牙の箸は用意しておけよ。チリン、チリン』とか言って。(大家と会話する場面で)象牙の箸と茶碗(ちゃわん)じゃないといい音がしないんですよ」と二代目松緑の思い出話も披露した。
電話で「出してください」と自ら売り込んできた孫の丑之助との共演も。11月25日まで。(水沼啓子)