40年の時を超え、父との再会:トゥプンガト山で発見されたリュックサックとフィルムの物語

アンデス山脈にそびえ立つトゥプンガト山。標高約6600メートル、アメリカ大陸最高峰の一つに数えられるこの山で、40年前に行方不明になった登山家のリュックサックが発見されました。中にはカメラ用フィルムも。これは、まるで時空を超えた父娘の再会、そして家族の再生の物語です。

氷山に残されたタイムカプセル

1985年、アルゼンチン人登山家のギジェルモ・ビエイロ氏はトゥプンガト山で下山中に命を落としました。享年44歳。当時4歳だった娘のアスルさんにとって、「山」は家族の心の傷を象徴する禁句でした。

それから40年。昨年、別の登山家によってビエイロ氏のリュックサックが発見され、娘であるアスルさんとグアダルーペさんに連絡がとどきました。リュックサックは、まるで氷に閉ざされたタイムカプセルのように、山頂付近の標高約6100メートル地点にありました。

alt アルゼンチンのメンドーサで、父親のリュックサックとピッケルを手に写真撮影に応じるアスル・ビエイロさんalt アルゼンチンのメンドーサで、父親のリュックサックとピッケルを手に写真撮影に応じるアスル・ビエイロさん

11日間の捜索と父の痕跡

アスルさん姉妹は、ガイドや映画製作者とともに11日間の捜索隊を結成。過酷な道のりを経て、ついに父のリュックサックと対面しました。中にはジャケット、寝袋、水筒、アスピリン、ビタミンCタブレット、ナイフ、そして2本のカメラ用フィルムが入っていました。

「まるで父が『私はまだここにいる、存在している。あなたは一人じゃない』と語りかけてくれているようでした」とアスルさんは当時を振り返ります。長年、心の奥底に封印されていた父の記憶が、リュックサックとともに解き放たれた瞬間でした。

フィルムに映る父の冒険

発見されたフィルムには、父と登山仲間の姿が写っていました。それは、家族が知らなかった父の冒険、そして人生の断片でした。母は父の死後、山での出来事について一切語ろうとしませんでした。そのため、アスルさん姉妹にとって、フィルムは父を知るための貴重な手がかりとなったのです。

alt 回収されたフィルムに写っていた父とパートナーalt 回収されたフィルムに写っていた父とパートナー

父との再会、そして家族の再生

「父がどんな人だったのか、母は一度も私たちに教えてくれませんでした。山で亡くなった登山家としか知らなかった」とアスルさんは語ります。リュックサックとフィルムの発見は、アスルさんにとって父との再会であり、家族の物語を再発見する旅の始まりでした。

山の専門家である山田一郎氏も、「このような形で過去の記憶と向き合うことは、遺族にとって大きな意味を持つでしょう。それは悲しみを乗り越え、未来へと進むための力となるはずです」と語っています。

この物語は、トゥプンガト山の壮大な自然を舞台に、時を超えた父娘の絆、そして家族の再生を描いた感動的なドキュメンタリーと言えるでしょう。