日本列島は地震大国。常に地震の脅威にさらされていますが、中でも懸念されているのが首都直下地震と南海トラフ巨大地震です。もしこの二つの巨大地震が連続して発生したら、日本はどうなるのでしょうか? 東京大学名誉教授の養老孟司氏と、小西美術工藝社社長で行政改革提言を行うデービッド・アトキンソン氏の対談から、その深刻なリスクを読み解いてみましょう。
経済への壊滅的な打撃:GDPの4倍が消える?
近年の日本は社会保障費の増大などにより財政が圧迫されています。そんな中で巨大地震が発生すれば、自力での復興は極めて困難になるでしょう。地震発生直後の被害だけでなく、長期的な経済損失も甚大です。
公益社団法人土木学会の試算によると、南海トラフ巨大地震の被害額は1410兆円、首都直下地震は1001兆円にものぼるとされています。2023年の日本の名目GDPは約597兆円ですから、二つの地震が連続発生すれば、GDPの4倍もの経済損失が生じる可能性があるのです。
南海トラフ地震の被害想定
さらに、これらの試算はすべての経済損失を網羅しているわけではなく、実際にはさらに深刻な被害が想定されます。東京大学大学院教授の目黒公郎氏も、この試算は控えめな数字だと指摘しています。まさに国家の存続に関わる危機と言えるでしょう。
首都一極集中というリスク
なぜこれほどまでの巨額損失が想定されるのでしょうか? 目黒氏によると、それは首都圏への過度な一極集中が原因です。人口、富、機能がすべて首都圏に集中しているため、ひとたび災害が発生すれば、その影響は計り知れないものとなるのです。歴史上、これほど災害リスクの高い地域に巨大都市が形成された例は他にないと言われています。
複合災害の恐怖:歴史が物語る最悪のシナリオ
巨大地震に加えて、複合災害のリスクも忘れてはなりません。南海トラフ沿いの東海・東南海・南海の三つのエリアでは、100~150年周期で巨大地震が発生しています。過去の事例を見ると、これらの地震が連続して発生したり、富士山噴火や台風といった他の災害と重なるケースも少なくありません。
宝永地震と安政の大災害
1707年の宝永地震は、東海・東南海地震が同時発生した可能性が指摘されています。その50日後には富士山が噴火し、宝永大噴火と呼ばれる大災害を引き起こしました。また、1854年には安政東海地震と安政南海地震が連続発生し、翌年には安政江戸地震(首都直下地震)が発生しています。さらにその翌年には安政の江戸暴風雨と呼ばれる大台風が江戸を襲いました。わずか数年の間に、巨大地震、噴火、台風と立て続けに災害が発生し、幕府の財政は破綻寸前まで追い込まれました。
過去の災害は、巨大地震と他の災害が重なると、どれほど甚大な被害をもたらすかを示す教訓となっています。首都直下地震と南海トラフ巨大地震が連続発生した場合、日本は未曽有の国難に直面することは避けられないでしょう。
私たちは、地震大国に住んでいるという現実を改めて認識し、日頃から防災意識を高めておく必要があります。政府や自治体も、最悪のシナリオを想定した対策を講じる必要があるでしょう。