【医師解説】甲状腺機能低下症:知っておくべき症状と対策

歌手のいしだあゆみさんの訃報を受け、改めて注目されている「甲状腺機能低下症」。一見、ただの疲れと見過ごされがちですが、実は全身の健康に大きな影響を与える病気です。この記事では、甲状腺機能低下症の症状、原因、そして最新の治療法まで、専門家の知見を交えて分かりやすく解説します。

甲状腺機能低下症とは?

甲状腺機能低下症とは、体のエネルギー代謝を調整する甲状腺ホルモンが不足する病気です。バセドウ病などの甲状腺機能亢進症とは正反対の状態です。初期症状は倦怠感や疲労感など、日常的な疲れと区別がつきにくいため、見過ごされるケースが多いのが現状です。しかし、放置すると日常生活に支障をきたすだけでなく、稀に重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。特に女性は、健康リスクの一つとして認識しておくことが重要です。

甲状腺の位置を示すイラスト甲状腺の位置を示すイラスト

主な原因「橋本病」とは?

甲状腺機能低下症の最も一般的な原因は「橋本病(慢性甲状腺炎)」です。これは自己免疫疾患の一種で、自身の免疫システムが誤って甲状腺を攻撃することで炎症を引き起こし、ホルモン産生を阻害します。橋本病は比較的よく見られる疾患で、成人女性の約10人に1人、成人男性の約40人に1人が罹患していると言われています。特に30~40代の女性に多く、男女比は約1:20~30です。

福岡県内の内科クリニック院長、佐藤先生(仮名)は「橋本病は発症しても甲状腺ホルモン値が正常範囲内にとどまるケースが多く、必ずしも治療が必要とは限りません。しかし、4〜5人に1人未満はホルモン低下が顕著となり、治療が必要となります」と指摘しています。

見逃されやすい初期症状

甲状腺機能低下症の初期症状は、倦怠感、便秘、体重増加、寒がり、皮膚の乾燥など、他の疾患と共通する症状が多いため、診断が難しい場合もあります。また、症状の進行も緩やかであるため、「年のせい」「疲れやすい体質」などと自己判断して放置してしまうケースも少なくありません。

症状の進行と深刻な合併症

甲状腺ホルモンが著しく不足すると、むくみ、記憶力低下、抑うつ、声のかすれ、心拍数の低下などの症状が現れます。さらに重症化すると、意識障害や低体温症などの生命に関わる合併症を引き起こす可能性もあります。

診断と治療

甲状腺機能低下症の診断は、血液検査で甲状腺ホルモン(T3、T4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を測定することで行います。治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補う「甲状腺ホルモン補充療法」が一般的です。薬の服用により、ほとんどの症状は改善されます。

日常生活での注意点

甲状腺機能低下症と診断された場合は、医師の指示に従って薬を服用することが重要です。また、規則正しい生活習慣、バランスの良い食事、適度な運動を心がけることで、症状の改善や悪化の予防に繋がります。

甲状腺機能低下症を理解し、健康管理を

甲状腺機能低下症は、適切な治療を行うことで日常生活に支障なく過ごすことができます。自身の体の変化に気を配り、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することが大切です。この記事が、甲状腺機能低下症への理解を深め、健康管理の一助となれば幸いです。