日韓、日米韓の防衛相会談で、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題の打開策は見つからなかった。対北融和路線をとる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がGSOMIAの継続を認めないため、河野太郎防衛相が連携の重要性を説いたところで、鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相は従来の釈明を繰り返すしかないからだ。北朝鮮の核・ミサイル脅威に目を背ける韓国に、日本政府や与党内ではいらだちが募る。
河野氏と鄭氏は個別会談の冒頭、握手を交わした。日韓両国の報道陣が入り乱れ、現場が騒然とするのとは対照的に、2人は無表情のままだった。
「日本が安全保障上の理由で対韓輸出規制を強化したので、GSOMIAを終了した」(鄭氏)
「非常に厳しい状況を改善するため韓国側の賢明な対応を求める」(河野氏)
関係者によれば、報道陣退室後、河野氏は「賢明な対応」との表現を使い、直接的に継続を求めることはなかった。対する鄭氏は国防とは別次元の主張を展開し、かみ合わないまま別の話題に移ったという。
その後の日米韓防衛相会談では共同声明を発表し、結束のアピールに腐心した。実際は河野氏が「日米韓の連携のための賢明な対応」を強く求め、エスパー米国防長官も連携の必要性を強調したが、鄭氏が姿勢を変えることはなかった。
日韓問題には口を挟まないことを基本姿勢とする米国も、GSOMIAに関しては全く異なる。米政府は15日にはエスパー氏が訪韓し、文氏や鄭氏に直接、継続を求めるなど「米韓問題」の様相も呈す。
日米はぎりぎりまで延長を模索する意向だが、自民党の有力な国防族は「韓国政府は米国の顔色を見て、日本に責任があるようなことを言っているだけで、日米韓の防衛協力に真剣に向き合っていない」とあきれる。実際、岩屋毅防衛相(当時)は今年6月の非公式会談で、防衛協力を優先するため韓国海軍艦が起こした自衛隊機へのレーダー照射問題を事実上「棚上げ」したが、その後も韓国は関係を悪化させる方向に走っている。
北朝鮮は今年5月以降、12回も弾道ミサイルを発射し、その大半が対韓国を想定しているとみられる短距離ミサイルだ。鄭氏もかねてよりGSOMIAについて「戦略的価値は十分にある」と語っている。だが、破棄か継続かの決定権は文氏を中心とする大統領府が握っている。
防衛省幹部は「現在の反日政権のもとでは、防衛当局間で話してもどうしようもない」と語る。1年1カ月ぶりの日韓防衛相会談の成果は、2人が初めて顔を合わせ、今後も意思疎通を続けることを確認したことにとどまった。(バンコク 田中一世)