朝日新聞(電子版)は5月9日の午前5時、「独自 備蓄米の入札条件緩和へ 政府、『買い戻し』見直しで流通拡大図る」との記事を配信した。見出しにある《独自》の文字はスクープ記事を意味し、ニュースソースは《政府高官》としている。コメの価格を下げるため、備蓄米の入札条件を緩和するよう政府が検討しているというのが記事の柱だ。(全2回の第1回)
【写真】コメ高騰が続くなか海外で購入する旅行者も…韓国のスーパーで実際に売られている「コシヒカリ」。4キロで約2300円。「お持ち帰り」を呼びかける張り紙も
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現在、備蓄米の入札に参加するためには、1年以内にコメを買い戻すことが条件になっている。朝日新聞は、この買い戻しの条件を緩和するよう政府が検討と報道。入札業者が増えれば備蓄米の流通経路が増え、価格の下落が期待できると伝えた。
朝日新聞のスクープ記事が配信されると、共同通信や時事通信、民放キー局なども後を追った。だが、入札緩和のニュースを喜ぶ消費者はどれほどいるのだろうか。担当記者が言う。
「XなどのSNSでは『そもそも入札を実施しているからコメが安くならない』、『ただちに入札を中止し、国民に無料で配るべき』などの異論が殺到しています。備蓄米の入札は3月に実施されたのが最初ですが、少なくとも首都圏などの都市部では5月になっても店頭で備蓄米を見かけることはありません。そもそも備蓄米は凶作や災害時などに放出するためのものですが、ネット上では『これほど流通に時間が必要なら、緊急事態が起きた時に急いで国民にコメを配付することなど不可能ではないか?』と疑問を投げかける投稿も数を増やし続けています」
ちなみに4月18日に開かれた江藤拓・農林水産大臣の会見では、備蓄米の流通があまりに遅いと記者が質問を行っている。
人事異動が原因
記者は「備蓄米の流通スピード」に対する評価を訊いたのだが、江藤農水相の回答は非常にピントがずれていた。
何と《3月、4月は、特に人事異動の時期であったりと、トラックの手配が難しかったりする部分もあったのだと思います》という見方を示したのだ。(註:農水省の公式サイトより)
江藤農水相が言う通り《人事異動の時期》が備蓄米の流通に悪影響を与えているのだとしたら、巨大地震が年度末に発生すると日本は大変なことになるだろう。
現在、都市部を中心に全国各地で「備蓄米が届かない」と悲鳴が上がっているように、大災害から数か月が経過しても被災者の手元にはコメが届かないかもしれない。
さらに《トラックの手配》も事実と異なる可能性がある。なぜならJA全農は5月9日、「出荷が完了した備蓄米は、3月落札分19・9万トンのうち6・3万トン」と発表したからだ。
6・3万トンは19・9万トンの31・7%に過ぎない。なぜ、これほど出荷が遅れているのか、新聞の中には「精米能力の限界」や「販売先から発注が来ていない」ことを理由に挙げた社もある。
つまり備蓄米は相当数が玄米のままなのだ。「トラックに乗せられる備蓄米が、それほどあるわけではない」という面も見過ごせないだろう。
いずれにしても備蓄米がJAで止まってしまっているのは事実だ。これを人事異動とトラック手配が主な原因だとする江藤農水相の説明には首を傾げざるを得ない。国民が備蓄米を切実に求めていることを考えれば、入札そのものを廃止するなど抜本的な解決策を講じるべきだろう。
Xでは江藤農水相に対して「即刻クビ」という厳しい意見が相当な数に達する。これほど国民が怒り心頭なのは、コメ価格の高止りが全く改善されないからだ。農水省は5月7日、スーパーのコメ平均価格を発表した。