これから人は100年生きるという。しかし、お金や孤独、健康不安がなく老後を迎えられる人はどれくらいいるだろう。年を取ることが怖いーー。
多くの人が漠然とした不安を抱く中、老後の人生こそ謳歌している人もいる。その元気は、気力は、生きがいは、いったいどのようにして手に入れたのか。本連載では、“後期高齢者”になってなお輝いている先達に、老後をサバイブするヒントを聞く。
今回は、前回に続き、92歳で秋田で1人暮らしをする「伝説のマタギ」松橋吉太郎さんにお話を伺った。
前回記事を読む→【82歳で“マタギの頭領”を引退」「88歳までチェーンソーを自在に操り…」秋田で1人暮らしの92歳が《伝説のマタギ》と呼ばれているワケ】
■「1人親」として、マタギと仕事、育児に奮闘
マタギ発祥の地として知られる秋田県北秋田市の阿仁地区に生まれ育った松橋吉太郎さん(92歳)は、人生の大半をマタギとして生き、熊獲りへ執念を燃やし続けてきた。
82歳のとき、マタギを引退して猟銃所持許可証を返納。本業の林業は88歳まで続けて、引退。90歳で、ついに自動車免許も返納した。
こうして松橋さんの老後が始まった。
北秋田市の中でも人口減少、高齢化が進む阿仁地区では、住民の足は老若男女問わず、ほぼ車である。山に行くことが日常だった松橋さんだが、車がなければそれもできない。だが、「できねぐ(できなく)なったことは仕方がない」と、松橋さんは明るく笑う。
その笑顔の通り、マタギも山の仕事もやり切って、車も手放した松橋さんの「92歳、男の1人暮らし」は、衣食住足りてなんだかとても楽しげなのである。
【写真を見る】92歳《伝説のマタギ》が毎日食べているもの(8枚)
松橋さんは40歳のとき、7歳下の妻・秋子さんを6年の闘病の末に亡くした。
長女10歳、長男8歳を抱えて、マタギ、林業、子育てに奮闘すること、十数年。子どもたちが独立して家から出てから、松橋さんはずっと1人暮らしを続けている。
今の季節は朝5時に起床。まず居間のソファで低周波治療器を腰にあてる。説明書通りならば1時間のところを2時間。腰痛がひどいからではない。