タイ・バンコクのスラムを中心に、アジア各地で子ども図書館の運営や貧困家庭への教育支援を続けてきた日本のNGO「シャンティ国際ボランティア会(SVA)」。その黎明期を支えた中心人物の一人、秦辰也氏(65歳、福岡県うきは市出身)が、日本での大学教授としての任期を終え、約20年ぶりにタイの現場に戻り、活動を再開しました。秦氏は、急速な経済発展の陰で増加する貧しい移民や取り残された人々に寄り添い、持続可能な支援のあり方を模索しています。
タイ・バンコクで活動を再開したシャンティ国際ボランティア会(SVA)の秦辰也氏
子ども図書館の役割と教育への影響
SVAが支援する図書館は、バンコク最大のクロントイ地区スラムにあります。小学6年生のファーさん(12歳)は「将来先生になりたい」と話し、毎日下校後に図書館へ通い、タイの物語の絵本を読んでいます。5年前から通い始め、読んだ本の数は数えきれないほどだといいます。この図書館は、厳しい日常生活から解放される安らぎの場所として、多くの子どもたちにとってオアシスとなっています。SVAの前身団体から含めると、これまでに1680万人以上の子どもたちが図書館を利用してきました。図書館で本に触れたことがきっかけで勉学に励み、タイ屈指の名門であるチュラロンコン大学に進学し、後に外交官となった女性もいます。秦氏は、読書が知識習得に加え、読み聞かせなどを通じてコミュニケーション能力を高め、言葉や心の教育につながることを強調しています。「人とのつながりが希薄になりがちなデジタル時代だからこそ、本の存在は一層重要です」と力強く語ります。
東南アジアにおける支援活動の展開と課題
SVAはタイだけでなく、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、東南アジアの様々な国で教育支援を展開してきました。図書館設置、絵本の出版、学校建設など、その活動は多岐にわたります。しかし、これらの国々では急速な経済発展が進む一方で、貧富の差が拡大し、支援から取り残される人々が存在します。特に、政情不安が続くミャンマーでは激しい内戦が起こり、カンボジアでは政治的な迫害に直面する人々がいます。比較的豊かなタイへと逃れてきた移民たちは、低賃金で過酷な労働環境に置かれ、経済的な理由で学校への進学を諦めざるを得ない子どもも少なくありません。
支援の進化:難民から移民へ
秦氏は、自身が離れていた間のタイにおける教育環境の改善を認めつつも、「貧困という根本的な課題は未だ解決されておらず、特に移民などへの支援ニーズは増大しています」と指摘します。SVAの支援対象も、時代の変化とともに「難民」から「移民」へとその幅を広げてきました。困難な状況にある子どもたちやその家族に寄り添い、教育を通じて未来を切り拓くための支援活動は、これからも形を変えながら続けられていきます。
【出典】
https://news.yahoo.co.jp/articles/86376e31efe5d08ba003d13deca7e312287e0679