日本の農業を支える?増加する外国人農家の実態と課題

日本各地で農地が多国籍化する現象が見られる。農林水産省のデータによると、2023年には在日外国人と思われる個人219人が合計60ヘクタール、外国法人20社が合計30ヘクタールの農地を取得した。少子高齢化が顕著で働き手が不足している地方では、多くの自治体が国際交流協定などを通じて外国人材の確保に積極的な姿勢を見せている。出入国在留管理庁の資料によれば、全国の在留外国人数はコロナ禍以降、年率10%以上のペースで増加を続けており、2024年末時点で約376万人に達すると予測されている。製造業に次いで、若年層の流出が著しい農業分野でも外国人材の増加が進んでいる。近年問題となっているコメ不足の原因も、長年の減反政策や気候変動など多岐にわたるが、供給不足の大きな要因として農業従事者の高齢化による労働力不足がある。このような状況下で、日本で農業を営む外国人の増加は、日本の食料供給にとって救世主となり得るのか。増加する外国人農家の現状を取材した。

日本の農地多国籍化の現状と背景

日本の農業が直面する深刻な課題の一つが、高齢化と後継者不足による労働力不足である。この穴を埋める形で、外国人材が日本の農業に参画する動きが広がっている。特に、人口減少が著しい地方部では、自治体が積極的に外国人労働者の受け入れや定住支援を行うケースも増えている。在留外国人の増加は農業分野だけでなく、様々な産業で見られるが、農業における労働力不足は喫緊の課題であり、外国人農家の存在は無視できないものとなっている。

コメ不足問題も、この労働力不足と無関係ではない。過去の減反政策、予測困難な気候変動による影響に加え、農業従事者の減少と高齢化は、安定的なコメ生産を困難にしている要因の一つだ。外国人農家が日本の農地で生産活動を行うことは、こうした労働力不足を補う可能性を秘めている。しかし、外国資本による農地取得に対する懸念の声も一部には存在する。

中国出身・范継軍さんの挑戦:日本の地で「北海農場」を経営

栃木県南部で「北海農場」を経営し、今年で9年目を迎える中国出身の范継軍さん(55歳)は、増加する外国人農家の一例である。彼の農場には、真っ赤な文字の看板が掲げられたビニールハウスが100棟近く立ち並ぶ。

栃木県で「北海農場」を経営する中国人農家・范継軍さん栃木県で「北海農場」を経営する中国人農家・范継軍さん

経営・管理ビザを取得し、農業委員会の許可などの条件を満たせば外国人でも農地の取得は可能だが、実際にはハードルが高く、多くの外国人農家は范さんのように農地を借りて農業を行っているとみられる。

異業種からの転身と農業への情熱

山東省で農家の息子として生まれた范さんは、大学卒業後、国営のコンピュータ企業に就職した。1998年に日本のIMAGICAグループの日本法人に転職し、4年後には独立してソフト開発会社を立ち上げたという異色の経歴を持つ。

IT業界で多忙な日々を送る中で、「農業はずっと頭にありました。農家の息子ですから。IT業界で働きながらも、畑や田んぼを見ると心が落ち着いた」と范さんは語る。心の中にあった農業への思いが募り、5ヘクタールの農地を借りて、日本ではまだなじみの薄い中国野菜の生産に乗り出したのだ。

ニッチ市場を捉えたビジネスモデル

范さんが生産するのは、パクチーや葉ニンニクといった中国野菜だ。これらの野菜は、増加傾向にある在日中国人の需要に応えるものであり、日本国内で急増している「ガチ中華店」にとっても不可欠な食材である。「今や在日中国人は約100万人で、“ガチ中華店”も急増している。しかし、中国野菜は輸入が難しい。だったら自分で作って売ろうと考えました」と范さんは語る。

生産した野菜は、自身が開発したアプリを通じて、全国の中国料理店や在日中国人の家庭に直接販売している。これは、栽培から販売までを一貫して行う独自のビジネスモデルであり、特定の需要に応えることで成功を収めている。

范継軍さんが経営する農園直結の中国料理店。自社栽培野菜を使用。范継軍さんが経営する農園直結の中国料理店。自社栽培野菜を使用。

外資規制なき現状と今後の懸念

外国人による日本の農地取得については、前述の通り一定の条件があるものの、法的な外資規制は存在しない。これは、過疎化や耕作放棄地の増加が進む中で、農地の有効活用や担い手の確保という側面からは期待できる可能性がある一方、将来的に日本の食料安全保障や農地が外国資本に買い占められることへの懸念も引き起こしている。范さんのケースのように借地で経営を始める外国人農家が多い現状も踏まえ、この問題は多角的な視点から議論される必要があるだろう。

結論

外国人農家の増加は、日本の農業における人手不足の解消に貢献し、特定のニッチ市場(例:民族野菜)への供給を担うなど、日本の食を支える一助となる可能性を秘めている。范継軍さんの事例は、異文化出身者が持つ視点や経験が、日本の農業に新たな価値やビジネスモデルをもたらし得ることを示している。しかし、農地取得や外資に関する議論、そして地域社会との共生といった課題も存在しており、単純に「救世主」と断じることはできない。日本の農業が今後どのように多様な担い手と共に発展していくのか、その動向は日本の食料自給率や地方経済にも大きく影響するため、引き続き注目が必要である。

[Source link ](https://news.yahoo.co.jp/articles/f33758a89679d1f942c6de749c4fbcefc6007537)