「ブラック郵便局」の闇:高齢者狙う不正販売、過酷ノルマの実態

郵便局を巡る不祥事や問題が後を絶たない。特に高齢者を狙った保険の不正販売は深刻化しており、その実態について『ブラック郵便局』の著者である西日本新聞の宮崎拓朗記者が取材に応じた。被害者の悲鳴や内部告発が多数寄せられる中、その背景にある郵便局の構造的な問題が浮き彫りになっている。

高齢者を狙った悪質手口の実態

郵便局を巡る問題の中でも、特に悪質性が際立っていたのが、山口県に住む30代男性のケースだ。軽度の認知症がある男性の母親に対し、地元の郵便局員が執拗に自宅を訪問し、明らかに不必要な保険契約を次々と結ばせていた。母親は契約内容について尋ねられても、「郵便局の人に任せているから大丈夫」と答えるばかりで、自分がどのような契約を結んでいるのか全く理解していなかった。男性が不審に思い自宅を調べたところ、驚くべきことに、わずか1年間で11件もの新たな保険契約書が見つかった。中には、1カ月で5件もの契約が短期間に行われた月もあったという。この結果、母親の銀行口座からは1年間で200万円を超える高額な保険料が引き落とされ続け、とうとう貯金残高は底をつき、生活に困窮する寸前まで追い込まれていた。このような、高齢者が判断能力の低下につけ込まれて不必要な契約を結ばされ、その家族が異変に気づいて初めて被害が発覚するというケースが全国で複数報告されている。

郵便局のイメージ写真。高齢者への不正販売など問題が多発し「ブラック企業」と揶揄される状況を象徴。郵便局のイメージ写真。高齢者への不正販売など問題が多発し「ブラック企業」と揶揄される状況を象徴。

過酷なノルマと職員への圧力

こうした一連の不適切販売問題、特にかんぽ生命保険に関する問題の根源には、郵便局員に課せられた極めて達成困難な保険契約のノルマがあった。この過酷なノルマを達成できない職員は、容赦なく追い詰められた。具体的には、全体の前で公開で「つるし上げ」られたり、屈辱的な土下座を強要されたりするような、精神的に大きな負担のかかる研修会が実施されていた実態が明らかになっている。宮崎氏の取材に応じた複数の郵便局員は、こうした組織からの厳しい圧力に耐えきれず、「お客様にとって不利益になると分かっていながらも、契約を取るために騙すような形になってしまった」と涙ながらに苦渋の告白をした。一方で、このような状況を逆手に取り、基本給とは別に高額な営業手当を稼ぐことを主目的として、意図的に不適切な営業を繰り返し、不正に多額の収入を得ていた一部の局員が存在したことも、問題の複雑さを物語っている。

巧妙な販売手法「乗り換え契約」

不適切な販売手法の中でも特に広く行われていたとされるのが、「乗り換え契約」と呼ばれるものだ。これは、顧客が現在加入している古い保険契約を一度解約させ、新たに別の保険契約に加入し直させるという手法である。顧客のライフスタイルやニーズの変化に合わせて保険契約を見直すこと自体は健全な行為であり、問題はない。しかし、保険の乗り換えには、それまで積み立ててきた解約返戻金が大きく目減りしたり、年齢が上がったことで新たな契約の保険料が高額になったりするなど、加入者にとって不利益となるデメリットが伴うことが多い。当時の郵便局では、職員が自身のノルマを達成するために、これらのデメリットを顧客に十分に説明しないまま、あるいは意図的に隠して乗り換えを強く勧めるケースが多発した。これは、新規顧客を一から開拓するよりも、既存の顧客に働きかける方が手っ取り早く契約件数を稼げると考えた、郵便局員側の都合が優先された結果に他ならない。

これらの問題は、一部の悪質な職員によるものだけでなく、郵便局全体の過酷なノルマ達成を強いる組織体制が招いた結果と言える。特に立場の弱い高齢者がターゲットとなり、財産を失うケースまで発生していることは極めて深刻だ。信頼されるべき公共性の高い組織で起きた一連の不正販売問題は、今なお多くの人々に影響を与え続けている。

出典: Yahoo!ニュース