イスラエルがイラン核施設を空爆:緊迫する中東情勢と米イラン関係の複雑性

イスラエルが突如、イランの核関連施設を空爆したことは、長引くイランとアメリカの核開発交渉の難航と、それに伴う軍事的緊張が高まる中で発生しました。イスラエル軍はイラン軍高官らを殺害したと発表し、これに対しイランも無人機による報復攻撃を実施するなど、大規模な衝突へと発展する懸念が生じています。イスラエルとイランの衝突はなぜ今、このようになったのか。国際政治学者の舛添要一氏が、その背景と複雑な関係性を解説します。

イスラエルによるイラン空爆の詳細

6月13日、イスラエルはイランへの空爆を開始しました。攻撃対象は核関連施設に及び、イランのメディアによると、イラン軍高官のほか、核開発に携わっていた科学者6人が死亡しました。首都テヘランへの空爆では、住宅地が被害にあい、複数の子どもが死亡したと報じられています。

この攻撃に対し、イラン最高指導者のハメネイ師は「この攻撃により、イスラエルは自らを苦い運命に落とし込んだ。必ず、その報いを受けるだろう」と報復を宣言しました。イスラエル軍は、イランから100機以上のドローンが発射されたものの「すべて迎撃」したと発表しています。

イランの核関連施設へのイスラエル空爆後、立ち上る煙と破壊の様子イランの核関連施設へのイスラエル空爆後、立ち上る煙と破壊の様子

空爆前日の緊迫した状況:米イラン核交渉の行方

一方で、空爆前日の6月12日には、アメリカとイランとの間でも緊張が高まっていました。アメリカは安全保障上の懸念を理由に、イラク、バーレーン、クウェートの3カ国にある大使館職員らの退避を進めていました。

4月からアメリカはイランに対し、核開発の停止を求める交渉を計5回実施しましたが、イラン側の譲歩を引き出せず交渉は難航。当時のトランプ大統領は、要求に応じないイランに対し武力行使の可能性も示唆しており、「(イランは)核兵器保有にかなり近付いている。厳しい措置を取らないといけない場合、我々はそうするだろう」と述べていました。

これに対し、イラン側も「協議が成功せずに我々に対して紛争が仕掛けられれば、より多くの被害が出るのは相手の方だ。(中東地域の米国の)すべての基地は我々の射程内にあるからだ」と、ナシルザデ国防軍需相が応戦する構えを見せていました。

一触即発の状態が続く中、6回目の核交渉が6月15日に予定されていましたが、イスラエルの攻撃はまさにその隙をついた形となりました。

なぜこのタイミングで?舛添氏の見解

このタイミングでのイスラエルの攻撃について、様々な憶測が飛び交っています。国際政治学者の舛添要一氏は、「イスラエルに大義名分を与えてしまった」ことが、このタイミングでの攻撃につながった一因であるとの見解を示しました。

複雑な関係性の背景:米・イラン・イスラエル

今回の武力衝突の背景を理解するには、イスラエル、アメリカ、イラン間の複雑な関係性を知る必要があります。現在、イランとアメリカは約45年間国交を断絶しており、さらにイランはイスラエルを「国家」として承認していません。

この3カ国の関係がこじれたきっかけの一つが、イラン革命(1978–1979年)です。親米的なパーレビ2世国王による統治下で貧富の差が拡大し、国民の不満が爆発。亡命先から帰還したイスラム教シーア派の指導者ホメイニ師が一気に政権を掌握し、最高指導者となりました。この革命により、1979年にイスラム原理主義に基づく「イラン・イスラム共和国」が樹立され、反米姿勢を強めることになります。

この反米の動きは、前代未聞の「アメリカ大使館占領事件」を引き起こしました。首都テヘランで反米思想の学生たちがアメリカ大使館に突入し、外交官らを人質に400日以上にわたって立てこもったのです。彼らはアメリカに逃亡した前国王の身柄引き渡しを求めました。この事件を機に、アメリカはイランとの国交を断絶しました。

もう一つ、関係を悪化させているのが、今回の焦点となっているイランの核開発問題です。2002年、イランで未申告の核開発が明らかになりました。イランは一貫して「平和利用」だと主張していますが、これに疑いの目を向けるアメリカなどはイランに経済制裁を実施しました。

核開発問題を巡る経緯と「合意」の崩壊

核開発問題を巡る国際的な動きとして、2015年にはオバマ政権がEUやロシア、中国などとともに、イランの核開発を制限する見返りに経済制裁を緩和する「核合意(JCPOA)」を結びました。しかし、2018年に第一次トランプ政権が一方的にこの合意から離脱。イランへの制裁を再開し、事実上の対イラン原油取引禁止措置を講じました。これを受け、イランも核開発を再開させています。

なぜイランは再び核合意に応じようとしないのか。舛添氏は、イランが「ウクライナの二の舞にならないか慎重になっている」と分析しています。

近年の衝突と中東情勢の変化

イランは1979年の革命以来、イスラエルを国家として認めていません。イスラム教徒が98%を占めるイランにとって、イスラエルはイスラム教の聖地エルサレムを奪った「イスラムの敵」とみなされています。パレスチナの民族自決を支持する立場から、イランはガザ紛争でイスラエルと戦うハマスを全面支持しています。

イランとイスラエルはこれまでも直接的な攻撃の応酬を経験しています。2024年4月には、イスラエル軍によるとされる戦闘機により、シリアのイラン大使館領事部が空爆されました。これに対しイランは、200以上のミサイルやドローンで報復攻撃を実施しました。また、同年7月にはテヘランでハマスの最高幹部が爆発により殺害される事件が発生。イランはイスラエルによるものと断定し、180発以上のミサイルをイスラエルの空軍基地などに撃ち込むなど、一触即発の緊張感が続いていました。

さらに、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」の弱体化や、シリアにおけるアサド政権の崩壊など、イランを後ろ盾とする反イスラエル勢力「抵抗の枢軸」の力が中東で急速に弱まっていることも指摘されています。イスラエルはこれを好機と捉え、イランを叩く決断を下した可能性も指摘されています。

イスラエルによる空爆の直前である6月12日には、IAEA(国際原子力機関)で、イランが核査察の受け入れに違反していると認定する決議が採択されていました。攻撃はその翌日に行われた形です。

攻撃後の状況と双方の主張

今回のイスラエルの攻撃を受け、イランの国連大使は死亡者が78人に上り、そのうち30人が子どもだったと発表しました。イランはイスラエルを支援するアメリカを「共犯者」と厳しく批判しています。

さらに、イランは報復として、およそ200発の弾道ミサイルを発射しました。イスラエルメディアによると、これまでに9発のミサイルが迎撃されずに住宅地などに着弾し、およそ70人が負傷、3人が死亡したと報じられています。

イスラエルの国防相は「イランは一線を越えた」と述べ、大きな代償を払うことになると主張しました。そして、トランプ大統領は「次の攻撃はさらに残虐なものになるだろう。手遅れになる前に交渉のテーブルに着くべきだ」とイランに対し警告を発しました。

6月15日(日本時間)時点で、双方の攻撃応酬は続いており、100人以上が負傷、30人以上が行方不明となっており、現在も救助活動が続いている状況です。

舛添氏が分析する「核合意」の歴史とイスラエルの作戦

今回のイランへの攻撃に踏み切った背景について、舛添氏は改めて「いずれにしても(イランが)核兵器を作っているのではないかという疑惑」が根底にあると語ります。2011年には核兵器開発の証拠が発見され、国際的な疑惑が高まりました。

「2015年に諸外国が集まって核合意を行い、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、全部集まって合意して、『もう核兵器やめなさい。原発のような平和利用はいいですよ。やめれば、もう制裁もしないし、経済も良くなりますよ』と。その時のイラン政府は『わかりました、ちゃんと守ります』ということで一件落着した」と、舛添氏は当時の状況を振り返ります。

しかし、その後トランプ政権が誕生しました。「私に言わせると、トランプ氏が悪い。第一次トランプ政権の2018年、アメリカだけが核合意から抜けちゃった。トランプ氏は絶対イランを信じていないので、イランに有利なことは抜ける。そうするとイランも、穏健派(改革派)の政権があったら、次は保守派でガチガチの対米強硬派が出るという順番になっている。対米強硬派が『アメリカがそこまでやるなら、核開発をやってやろうじゃないか』と喧嘩になってしまった」と、合意崩壊の決定的な要因はアメリカ側にあると指摘。バイデン氏が大統領になった際に合意に戻ることに成功しなかったこと、そして再びトランプ氏が来て、イランを非難する姿勢を強めている状況を説明しました。

また、今回のイスラエルの先制攻撃に関して、「すごかったのは(イスラエルの諜報機関)モサドがイラン国内で数年がかりで工作をやっている」とその準備周到ぶりを解説。「イランの司令官、核兵器を作る科学者が全員殺された。朝何時に起きて、大学の研究室に何曜日に行ってなど全部調べる。全部の行動を把握してみんなが揃ったところにミサイルを撃ち込む。また、空爆する時に、下から迎撃されるといけないので、迎撃システムを事前に壊す。その工作員も張り巡らせている。イランの中にバレるからイラン人だと思うが、イスラエルの工作員が山ほどいる」と、イスラエルの諜報活動が今回の攻撃を可能にしたと述べました。

今回のイスラエルによるイランへの攻撃は、長年にわたる両国間の敵意に加え、米イラン間の核開発問題を巡る対立が絡み合った結果と言えます。イスラエルの綿密な準備と、米国との交渉の隙間を突いたタイミングが指摘されています。一方、イランも報復を辞さない構えを見せており、中東地域の緊張はかつてないほど高まっています。双方の攻撃応酬は続き、事態の沈静化は見通せない状況です。

Source link