長年にわたり旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題を追及してきたジャーナリストで衆議院議員の有田芳生氏(73)。近年、彼がテレビ出演を控えている背景には、旧統一教会からの訴訟があるという。これは「スラップ訴訟」にあたると有田氏は指摘しており、ついに教団側を反訴する行動に出た。この一連の動きは、日本における言論の自由と訴訟のあり方について重要な問いを投げかけている。
旧統一教会のスラップ訴訟に対抗し、反訴を提起したジャーナリスト有田芳生氏
「8秒の発言」が引き起こした訴訟とその影響
有田氏が旧統一教会に訴えられたのは2022年10月のことだった。同年8月19日に日本テレビ系列の情報番組『スッキリ』で、萩生田光一衆議院議員と旧統一教会の関係性を特集した際に、コメンテーターとして有田氏が述べた発言が名誉毀損にあたるとして、損害賠償を請求されたのだ。その問題とされた「8秒の発言」とは、「やはりもう、霊感商法をやってきた反社会的集団だってのは警察庁も、もう認めているわけですから」というものだった(訴状原文ママ)。
この40分以上に及ぶ特集の中のわずか8秒間の発言に対し、旧統一教会は有田氏と日本テレビに対し、計2200万円という高額な損害賠償を求めた。裁判は一審、二審ともに有田氏側が勝訴したが、有田氏は「訴えられた翌日から、テレビの出演依頼が本当にパタッと途絶えました。今に至るまで一本もありません」と語っている。
旧統一教会は、批判的な個人だけでなく、番組を放送したテレビ局も同時に訴える手法をとる。有田氏は、このような訴訟は、裁判の準備に膨大な時間と労力がかかることを嫌がるメディア側が、「有田氏を出演させるとまた訴えられる」と判断し、結果的にメディアからの排除を招く目的がある、と指摘する。これがまさに「スラップ訴訟(SLAPP:strategic lawsuit against public participation)」、すなわち公共的な活動に対する戦略的訴訟であり、「恫喝(どうかつ)訴訟」とも呼ばれる、威圧目的で起こされる訴訟であると、有田氏は訴えている。特徴として、求める賠償金が法外に高額なケースが多い。
有田氏が反撃を決意した理由と訴訟の目的
安倍晋三元首相の銃撃事件以降、旧統一教会を批判したメディア関係者や弁護士らが教団側から高額な訴訟を起こされており、その多くが棄却されている状況がある。こうした中で、有田氏は単なる防御に留まらず、反撃を決意した。
2025年1月、有田氏は旧統一教会、田中富廣会長、そして一連の訴訟で教団の代理人を務める福本修也弁護士の三者を相手取り、1100万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。訴状では、スラップ訴訟は被告に多大な応訴負担を強いることを目的としており、「裁判を受ける権利」の逸脱・濫用にあたると主張。さらに、スラップ訴訟の違法性は、個人だけでなく、社会全体の同種言論を萎縮させ、表現の自由を侵害するものであると指摘している。したがって、有田氏の訴えは、自身の損害回復だけでなく、表現の自由を擁護するための訴えであると強調されている。
有田氏は、旧統一教会による言論弾圧の手法が時代と共に変化していると分析する。1970年代から80年代初頭にかけては、批判記事の誤りを指摘して謝罪や訂正記事を掲載させ、それを「マスコミ謝罪集」としてまとめることで、「面倒な団体」という印象をメディアに植え付け、自主規制を促す効果をあげていた。
80年代半ばには、朝日ジャーナルが教団を批判した際に、信者たちが一斉に抗議電話をかけ、電話回線をパンクさせる事件を起こした。有田氏によれば、これは特定の時間に一斉に電話するよう指示された組織的な行動だったという。92年にTBSが合同結婚式を批判した際にも、1日で3万件もの抗議電話が殺到したとされる。
言論封殺の手法の進化と日本の現状
有田氏は、「電話攻撃のような直接的な嫌がらせは、かえって教会のイメージを悪化させる」とし、安倍元首相の事件後に教団への批判が再燃した今回は、「ピンポイントでうるさい弁護士やジャーナリストを黙らせる裁判という合法的な手段で言論封殺を始めた」と見ている。資金力や組織力を持つ団体が、批判的な個人やメディアを標的に訴訟を乱発するケースは後を絶たない現状がある。
有田氏は、「日本でも当たり前のようにスラップ訴訟、嫌がらせ訴訟、口封じ訴訟が行われている。そんなことは許されないんだよ、ということを示す必要がある。今回の訴訟にはそういう目的もあるのです」と語り、日本の現状に警鐘を鳴らしている。海外ではこうしたスラップ訴訟を規制する「反スラップ法」の整備が進み、言論の自由を守るための抑止力となっている州もある一方、日本では法規制がなく、事実上野放しになっているのが現状だ。
フライデーデジタルの取材に対し、旧統一教会は有田氏を訴えた理由について、「警察庁が当法人を『反社会的集団』であると認めた事実はなく、当法人および教会員の名誉を著しく毀損するものであるため、提訴に踏み切りました。一連の裁判において、有田氏の当該発言が事実であるとは一切認定されていません」と回答している。
また、「スラップ訴訟」だとして有田氏に訴えられたことに対しては、「そもそも『スラップ訴訟』との評価が誤りです。当法人は、有田氏の根拠のない発言により、著しく名誉を傷つけられたのですから、名誉を回復するために裁判所に救済を求めるのは、当たり前のことであり、これが不当訴訟と判断される理由は全くありません」と反論。さらに、「むしろ、有田氏こそ、前件訴訟が不当訴訟の要件を充さないことを知りながら、世間の注目を集めるため、『スラップ訴訟の被害を受けた』などと主張して、本件訴訟を提起しており、この裁判こそが不当訴訟であると言えます」と、有田氏の反訴こそが不当訴訟であるとの見解を示している。
有田氏が提起したこの反訴は、7月15日に東京地裁で第2回口頭弁論が開かれる予定だ。日本における「スラップ訴訟」の定義と是非、そして表現の自由を巡るこの裁判の行方に注目が集まる。