日本社会に深く根差す外国人差別の問題は、入管施設での病死、餓死、自殺といった悲劇や、「現代の奴隷制」とまで呼ばれる技能実習制度に集約されています。安田浩一氏と安田菜津紀氏による著書『外国人差別の現場』(朝日新書)は、こうした日本の外国人差別の実態に迫り、その一端を明らかにしています。特に、過酷な労働環境に置かれ、希望を失っていく外国人労働者の現実が浮き彫りにされています。
技能実習制度下の過酷な現実:シェルターに保護された15名の実習生
2022年3月、あるシェルターには中国人、カンボジア人、ベトナム人など15名の外国人が保護されていました。彼らは全員が技能実習制度を利用して日本に来た実習生で、それぞれが実習先企業から逃れてきた複雑な「理由」を抱えています。低賃金や労働条件の悪化、会社の倒産など、日本で夢を抱いて働き始めた彼らを待ち受けていたのは、過酷な現実でした。
時給400円の縫製工場で絶望した中国人女性の証言
その中の一人、中国江蘇省出身の45歳の女性は、約1年前まで大手ファッションブランドの下請け縫製工場で働いていました。彼女の時給はわずか400円。これは地域の最低賃金を大幅に下回る違法な賃金であり、労働者として基本的な権利が侵害されていました。さらに不運なことに、彼女の勤めていた会社は突然倒産。未払い賃金の支払いを求めても、「資力がない」という理由で拒否されてしまいました。通常、このようなケースでは監理団体の斡旋により他企業への転職が可能ですが、倒産から1年が経過しても彼女に新しい職場は提供されないままでした。
現在、この女性はシェルターでの生活を余儀なくされ、監理団体との交渉を続ける担当者からの報告を待つ日々を送っています。すでに半年以上が経過したシェルター生活の中で、彼女は「疲れた」と漏らし、中国へ帰国することも考え始めています。しかし、ここで帰国すれば、シェルターで過ごした時間が無駄になるだけでなく、そもそも日本に来たこと自体が間違いだったのではないかという深い後悔に苛まれる夜もあると言います。家族を喜ばせるために日本で稼ぐという強い思いを抱いてきた彼女を待ち受けていたのは、低賃金労働、会社の倒産、そして経営者と監理団体の無責任な態度でした。彼女は「日本がそんな国だと思わなかった。失望した」と語り、日本社会の抱える闇を痛烈に示しています。
低賃金で働く外国人技能実習生の姿を想起させる縫製工場の様子(イメージ)
待ち望んだ日本と現実のギャップ:問われる人権と責任
この中国人女性のケースは、技能実習制度が抱える構造的な問題を象徴しています。夢と希望を胸に来日した外国人実習生が、低賃金や劣悪な労働環境、そしてトラブル発生時の無責任な対応によって深い絶望に突き落とされています。彼らが経験する「失望」は、日本社会が国際社会の中でどのように人権と責任を果たすべきか、そして「現代の奴隷制」と指摘される技能実習制度のあり方自体を改めて問うものです。外国人労働者が安心して働き、尊厳を持って生活できる社会の実現に向け、制度の見直しと抜本的な改善が急務となっています。
参考文献
- 安田浩一、安田菜津紀『外国人差別の現場』(朝日新書、2022年)