太平洋戦争末期、激烈な地上戦が行われ20万人以上が犠牲になった沖縄戦から、今年で80年。「台湾有事」が取りざたされる今、沖縄を含む南西諸島では自衛隊基地が新・増設され、ミサイル配備も進んでいる。その一方で一部の政治家による沖縄戦での日本軍の行動を正当化する発言も物議を醸した。沖縄戦研究の第一人者である林博史氏と、昨年『従属の代償 日米軍事一体化の真実』(講談社現代新書)を上梓し、長年、自衛隊問題を調査しているジャーナリスト布施祐仁氏が、沖縄戦と自衛隊、米軍、そして「台湾有事」について語り合った。
南西諸島では「またこの島々が戦場になるんじゃないか」という不安の声を耳にする
布施 林先生の『沖縄戦』(集英社新書)を読んで、まさに「沖縄戦史の決定版」だと思いました。沖縄は私の取材フィールドでもあり、沖縄戦についてもある程度知っているつもりでしたが、この本を読んで初めて知ることも多く新鮮でした。
沖縄戦についてはものすごく膨大な記録があります。沖縄県全体でも各市町村でも、戦争体験者の証言を記録したものが膨大にある。本当はそれを全部読みたいのですが、現実的には難しい。
この本では、林先生が長年そういう膨大な記録を読んで、その中から重要な証言をピックアップしてくださっているので、「単にこういうことがあった」という事実だけではなく、実際にあの戦場にいた一人ひとりの人間の生の声も知ることができて、マクロの目とミクロの目の両方で、沖縄戦の全体像を把握できる。初めて沖縄戦について学ぶ人にとっても、私のように、もう一度学びなおそうという人にとっても、本当に最適の本だと思います。
近年、沖縄を含む南西地域では「防衛体制」の強化が急ピッチで進められていて、私も鹿児島県の大隈おおくま諸島から沖縄県の先島さきしま諸島にいたる島々を回って軍備強化の取材を続けてきたんですが、島の人たちから「この島が戦場になるんじゃないか」という不安の声を、特に戦争を体験した世代から耳にすることが多いんです。
そうならないように、沖縄戦の記憶を風化させず、教訓をしっかりくみ取ることが今、特に大事だと感じます。そういう意味でも、ぜひ多くの人に読んでほしい本だと思います。