国内最大規模の消費者被害として知られる安愚楽牧場事件から10年以上が経過しました。しかし、和牛のオーナーになることで配当金を得られるとする和牛オーナー制度詐欺は、形を変えながらもいまだに横行しています。原則禁止されたはずの販売預託商法が、消費者を狙い続けています。
新たな手口「ハラル認証」を謳う勧誘
近年確認されている手口の一つに、「ハラル認証」を受けた神戸牛事業への出資話があります。50代の男性税理士は、経営者を名乗る男から約1年半前、この種の事業への出資を持ちかけられました。男は「神戸牛は海外で人気があり、ハラル認証があれば確実に売れる」と説明し、出資金に数%の配当を上乗せして支払う約束をしました。さらに、実在する大手食肉加工会社の工場写真を示し偽装。男性税理士は知人と共に計約400万円を出資しましたが、「海外取引の遅延」を理由に連絡が途絶えました。調査の結果、他にも約10人が計約2千万円を出資し、同様に音信不通となっていることが判明しました。
和牛オーナー商法被害を語るタモンズの安部浩章さん
過去の大規模被害:安愚楽牧場事件
この種の和牛オーナー制度が社会問題として広く認識されるきっかけとなったのが、平成23年(2011年)に経営破綻した安愚楽牧場(栃木県)の事件です。同牧場は、出資者に繁殖牛を販売し、生まれた子牛を買い取って育て、売却するというスキームで事業を展開。約7万人から4千億円以上もの出資金を集めましたが、巨額の負債を抱え破綻しました。元代表取締役らは虚偽の説明で出資を募ったとして、当時の特定商品預託法違反で有罪判決が確定しています。
法規制強化も続く被害
安愚楽牧場事件に加え、磁気健康器具の預託商法を展開した平成29年(2017年)のジャパンライフ問題(被害額約1800億円)など、大規模な消費者被害が相次いだことを受け、法規制が強化されました。令和3年(2021年)には預託法(特定商品預託法)が改正され、「オーナーになれば配当金が受け取れる」といった勧誘を伴う販売預託商法は原則禁止となりました。
相談件数は倍増、高まる警戒必要性
しかしこうした法規制にもかかわらず、和牛オーナー商法を含む「利殖勧誘事犯」は沈静化するどころか増加傾向にあります。警察庁の統計によると、昨年の相談件数は3310件に上り、令和元年(2019年)の1560件から倍増しています。これは、巧妙な手口で消費者を誘い込む詐欺集団が依然として活動している現実を示しており、一層の警戒が必要です。
安愚楽牧場事件から長い年月が経ち、法改正も行われましたが、和牛オーナー制度を悪用した詐欺被害は後を絶ちません。新たな技術や認証制度(ハラル認証など)を謳うなど手口も多様化しており、誰もが被害に遭う可能性があります。「高配当」や「確実な儲け話」には特に注意し、安易な出資は避けることが、消費者被害を防ぐために極めて重要です。