近年、存在感を増している「退職代行サービス」。中には「リピート割」を設けるサービスも多く、複数回にわたり利用するケースが見られる。一度だけでなく繰り返し退職代行を使う人々の心理とはどのようなものだろうか。その実態を探る。
退職代行サービスのイメージ。職場を離れる人物。
退職代行を繰り返す理由とは？3回利用した男性の告白
今回話を聞いたのは、宮城県在住の飯田昌也さん（仮名・30歳）。飯田さんはこれまで3度、退職代行サービスを利用してきたという。高校卒業後、地元の運送業で9年間働いたが、夜勤業務に身体がついていかず退職。その後、建造物や乗り物に使われるパーツの製造工場に入社したが、マイクロミリ単位の細かい作業や1日中立ちっぱなしの業務が合わず、4か月で限界を感じた。この時、初めて退職代行を使うことを決めた。
自力での退職交渉を選ばなかったのは、職場で貴重な若手として期待される空気があり、言い出しにくかったためだという。また、最初のドライバーの仕事を辞める際に引き止めにあい、申し出てから2か月間仕事を続けることになった経験から、それを避けたかった。そのため、すぐにLINEで退職代行とやり取りし、手続きを全て任せた。
その後、飯田さんは中古車の修理会社に1年半勤務したが、希望部署から外されパワハラを受けたことでメンタルを崩し、自己都合で退職。しかし、立て続けに2社を退職代行で辞めることになった。興味本位で見つけた配管管理の仕事は、業界未経験ながら座学研修後すぐに上司なしで現場に行かされ、何をすれば良いか分からず、1週間で退職代行に依頼した。次に転職したブランド品買取業では、面接で半年ほどでクローザー（買い取りに行く人）になれると聞かされていたにも関わらず、入社すると電話係になると匂わされたため、話が違うと感じた。たった10日で退職代行に依頼するに至った。
30代男性が退職代行を利用した心理。新しい職場への移動を考える様子。
退職代行をリピートした際の罪悪感は全くなかったという。それよりも、退職代行への連絡一つで確実に楽に辞めることができ、今の会社と一切関わる必要がなくなる点に利便性を感じていた。
飯田さんは現在、3社目の中古車修理と同じ業務ができる会社に就職し、1年以上働いている。「以前の会社はパワハラがキツかっただけで、仕事自体は一番楽しかった」と語り、職を転々としたからこそ、自分に向いている仕事にたどり着けたと明かす。退職代行を使ったことは友人には普通に話しており、彼らの中にも利用者がいるため「へー」という反応が多いそうだ。転職先にはもちろん隠しているが、周囲からは今どき珍しいことではないと受け止められていると感じている。強いて言えば、家族には知られたくないという思いがあるくらいだ。
合わない仕事にしがみつくよりも、退職代行を使ってスパッと辞めた方がタイムパフォーマンス（タイパ）は良いと考えている。精神をすり減らすような職場に居続けたまま30代後半になれば、さらに転職が難しくなるかもしれないという危機感もあった。とにかく早く、長くいられそうな会社を見つけたかったため、退職代行を3回利用したことへの後悔はまったくないという。
結論
飯田さんの経験は、合わない職場に固執せず、早期に見切りをつけるために退職代行を有効活用する一つの事例と言える。タイパや精神衛生を重視し、より良いキャリアを見つけるための手段として、退職代行サービスが繰り返し利用される背景には、こうした個人の切実なニーズがあるようだ。社会全体の働き方や価値観の変化と共に、退職代行の役割も変わりつつあるのかもしれない。
出典：Yahoo!ニュース オリジナル 特集 ( via 集英社オンライン)
