安定的な皇位継承を巡る議論は、日本の政治社会において長年の課題となっています。今年の通常国会でも、皇族数の確保に向けた対策が話し合われましたが、結論は秋の臨時国会へ持ち越されました。この問題の背景には、皇室典範という特別な法律、そして歴史的な経緯が深く関わっています。皇室史に詳しい宗教学者、島田裕巳氏は、この難題の解決には皇室典範の中身を変える必要性があると言及しています。
皇族数確保を巡る国会の難航
通常国会で安定的な皇位継承に関する合意が形成されなかった主な理由は、複数の論点における意見の対立です。特に議論が分かれたのは、女性皇族が結婚後も皇室に残ることを認める、いわゆる「女性宮家」を創設した場合に、その配偶者や子どもを皇族とするかどうかという点です。また、GHQ占領期に皇籍を離脱した旧皇族の男系男子を養子として皇族に迎える案についても、賛否が分かれました。これらの論点において大きな隔たりがあるため、臨時国会で合意形成に至るかは不透明な状況です。
皇室典範は国会の議決で改正可能な法律
皇室典範は、その名称から特別なものと捉えられがちですが、実際には国会の議決によって改正が可能な一般の法律の一つです。議論がまとまり、国会で可決されれば、その内容は変更することができます。では、なぜ「典範」という特殊な言葉が使われているのでしょうか。これは、1889年(明治22年)に定められた「旧皇室典範」に由来します。
旧皇室典範は、大日本帝国憲法と同時に制定されましたが、法律ではなく、天皇家の「家憲(かけん)」と位置づけられていました。家憲であるため、戦前に存在した帝国議会で審議したり、改正したりすることはできないとされていたのです。
新旧皇室典範に見る共通点と相違点
基本的な枠組みにおいては、現在の皇室典範と旧皇室典範に大きな違いはありません。戦後の皇室典範で新たに追加された規定としては、皇位継承権が嫡出子に限定され、側室が否定されたこと、そして皇族の範囲が大幅に縮小されたことが挙げられます。旧宮家が皇籍を離脱したのは、この規定と関連しています。
しかし、男系男子による皇位継承を定めている点では、新旧の皇室典範は共通しています。つまり、現在の皇室典範でも、女性天皇や女系天皇は認められていません。
「皇太子」が存在しない現在の状況
現在の皇室の状況に関連して重要なのが、「皇太子」に関する規定です。現在、皇太子は存在していません。皇位継承順位は、第一位が秋篠宮さま、第二位が悠仁親王殿下ですが、お二方とも皇太子ではありません。秋篠宮さまは「皇嗣(こうし)」と位置づけられています。
これは、現在の皇室典範が旧皇室典範から引き継いだ規定である第八条に基づいています。同条では、「皇嗣たる皇子を皇太子という。皇太子のないときは、皇嗣たる皇孫を皇太孫という」と規定されています。ここでいう「皇子」とは天皇の男性の子どものことを指し、秋篠宮さまは今上天皇の弟君であり、子どもではありません。また、悠仁親王殿下は今上天皇の甥にあたります。そのため、現在の皇室典範の定義上、「皇太子」または「皇太孫」にあたる方がいらっしゃらない状況となっています。
皇位継承を巡る議論の中で、沖縄訪問から羽田空港に到着された愛子さま
安定的な皇位継承に向けた議論は、皇室典範の改正という法的な手続きを通じて行われますが、そこには皇族のあり方や旧皇族との関係など、国民の間でも様々な意見が存在する複雑な問題が横たわっています。国会での合意形成は容易ではなく、今後の議論の行方が注目されています。