ニューヨーク経済の現実:在住日本人が語るトランプ政権下の雇用と物価

7月9日の関税引き上げ期限を前に、米国との関税協議が行われました。トランプ大統領は日本からの自動車輸入に関し「不公平だ」と繰り返し不満を表明し、追加関税の見直しを示唆しています。こうした状況下、米国国内、特に経済の中心地ニューヨークで暮らす人々の生活はどのような変化を見せているのでしょうか。米国で進む企業の倒産や人員削減は、決して日本にとって対岸の火事ではありません。ニューヨークに20年以上暮らし、現地のリアルをYouTubeで発信する日本人女性acchiさんに、その実情を聞きました。

トランプ政権下の関税引き上げ懸念とニューヨークの街並みトランプ政権下の関税引き上げ懸念とニューヨークの街並み

トランプ政権下で加速する失業と倒産

トランプ政権が始動して約5ヵ月、世界中が関税政策に揺れる中、ニューヨークの経済状況はどのように変化しているのか。acchiさんは、現時点では関税引き上げの直接的な影響を大きくは感じていないとしつつも、「今年に入ってから企業の倒産や人員削減のニュースが確実に増えた」と語ります。普段アパレルメーカーでテクニカルデザイナーとして働くacchiさんの実感としても、新政権の経済政策による影響はこれから本格化すると見られ、雇用市場にはすでに暗雲が立ち込めていると言います。

実際に、テック企業の約3万人に及ぶ大規模な解雇や、イーロン・マスク氏による約28万人もの公務員解雇のニュースは大きな話題となりました。また、物価上昇や近年の激安ブランドの台頭といった経済構造の変化から、大手チェーン店の倒産や閉店も目立っています。さらに、4月以降は関税引き上げへの警戒から、先手を打つ形での企業による人員削減の報道が増加。今後、関税がさらに引き上げられれば、「これまで耐えてきた企業も限界を迎える可能性がある」との不安の声も聞かれます。

この雇用不安の波は、ニューヨークで働く人々にも影響を与えています。acchiさんの周りでも人員削減を行う会社は多く、「少人数で業務を回す必要が生じ、即戦力が求められるようになった」とのこと。そのため、経験者は再就職先が見つかりやすい一方、新卒者は就職活動に苦労している状況です。加えて、今年の5月に再開された学生ローンの返済が追い打ちをかけています。新型コロナウイルス禍で猶予されていた連邦学生ローンの回収が強制され、米国の学生約4300万人が抱える学生ローンの返済が多くの若者を苦しめています。「正社員どころかバイト先も見つけるのに苦労するのに、学生ローンの返済なんてムリ!」と嘆く若者のSNS投稿も頻繁に見られます。

日常生活を圧迫する物価上昇

雇用不安に加え、ニューヨーク市民の生活を直撃しているのが、コロナ禍から続く物価高です。物価はコロナ後期に一度大きく上昇した後、変動を繰り返しながら、現在もコロナ前と比較して全体的に20%ほど高くなっていると言います。店舗やセールによって価格差はあるものの、近所のスーパーでは、コロナ前は5ドル程度だったオーガニックの牛乳や卵(1ダース)が、今では8ドル程度まで上昇しています。

ガソリン価格については、2020年には1ガロン2.15ドルまで値下がりしましたが、2022年には4.5~5ドルほどまで上がり、その後下落して現在は3.15ドル程度です。ニューヨークは公共交通網が整備されているため車を使わない人も多いですが、車が主な移動手段となっている他の州に住む人々の生活は依然として圧迫されている状況です。

ニューヨーク在住の日本人acchi氏が語る現地の経済状況は、トランプ政権下の関税問題、それに伴う雇用不安、そしてコロナ禍以降続く物価高が複雑に絡み合い、市民生活に大きな影響を与えている現実を示しています。企業活動の変化から個人の家計まで、多岐にわたる困難が浮き彫りとなっています。

出典:FRIDAYデジタル(ニューヨーク在住日本人acchi氏へのインタビューより)