夏の参院選が7月3日に公示され、20日の投開票に向けて物価高対策、就職氷河期対策、政治とカネなどが争点となる中、中でも注目されるのは「減税」の動向です。国政の行方を占う前哨戦として注目された東京都議会議員選挙では、自民党が大きく議席を減らす厳しい結果となりました。果たしてこの結果は参院選にどう影響するのか。憲政史研究家である倉山満氏が、今回の都議選の結果を詳細に分析します。
東京都議会議員選挙の結果について述べた石破首相の写真
コストプッシュインフレ下での経済政策と「山尾ショック」
現在のコストプッシュインフレの状況下で、最も有効な経済政策の一つが減税です。国民が税や社会保障費の負担に苦しむ中、これらのコストを下げる直接的な方法が減税だからです。昨年の衆議院選挙以降、減税を求める世論が高まり、主要七政党のうち六つまでが減税を公約に掲げる流れが生まれていました。この中で、頑なに減税を拒否していたのは自民党のみでした。
しかし、この減税の流れに水を差したのが、いわゆる「山尾ショック」です。減税論を牽引してきた国民民主党が、過去に問題を指摘された山尾志桜里元衆議院議員の公認を発表した直後、支持率が急落しました。これと時を同じくして、小泉進次郎農相(当時)のパフォーマンスなどが奏功し、自民党の支持率が回復。連立与党である公明党までが、参院選の公約から消費減税を取り下げたのです。減税を訴えなくても選挙に勝てる、という判断があったのかもしれません。
ところが、自民党はここで判断を誤りました。1兆円の財源がないとして減税を拒否したにもかかわらず、自身は6兆円規模の給付金を打ち出したのです。さらに、党首討論で石破茂首相(当時)が「給付はしない」と明言したわずか2日後の出来事でした。このような国民感情との乖離に対し、先日22日に投開票が行われた東京都議選で、有権者からの厳しい審判が下されたのです。
都議選で下された「政治とカネ」ではない審判
自民党は都議選で21議席という歴史的な大敗を喫しました。これはさすがに国民を軽視しすぎた結果と言えるでしょう。しかし、未だに自民党内では、有権者の怒りは「政治とカネ」の問題にあると捉えている節があります。国民に生活の糧を提供することが最大の存在意義であるはずのこの党は、いつから庶民感覚からこれほどかけ離れた政党になってしまったのでしょうか。
公明党は19議席を獲得しましたが、32年間続いていた候補者全員当選の記録が途絶え、3人が落選しました。与党として「もらい事故」と捉えるか、あるいは自ら消費減税の旗を下ろした「自業自得」と見るべきか。公明党も、今後も自民党の「下駄の雪」(言いなり)で良いのか、再考を迫られています。
立憲民主党は17議席で、野党第一党の座を獲得し、まずまずの結果となりました。ただし、都議選と同日に行われた船橋市長選では、野田佳彦元首相の直系候補が落選しており、代表の地元での敗北は「示しがつかない」との声も聞かれます。
日本共産党は14議席に留まり、野党第一党から転落しました。党員の高齢化、すなわち若者の党離れが進み、党勢の退潮に苦しんでいる現状が浮き彫りになりました。しかし、立憲民主党との選挙区調整を進めた結果、「立憲共産党」としての連携は一定の成果を上げたと言えます。
国民民主党は、数ヶ月前までは「候補者を立てれば当選する」ほどの勢いがありました。しかし、「山尾ショック」による支持率低下に苦しみましたが、結果は9議席。18人の候補者全員当選とはなりませんでしたが、党勢回復に向けた光明が見えたと言えるでしょう。
小池百合子都知事が率いる地域政党、都民ファーストの会は31議席を獲得し、第一党に返り咲きました。減税を求める無党派層の受け皿となった側面が強いと考えられます。都政においては、友党である国民民主党と合わせて40議席となり、都政与党の自民・公明と合わせれば安定した都政運営が想定されます。
ただし、都民ファーストが明確に「減税」を前面に掲げていたわけではありませんでした。その証拠に、定数1の千代田区選挙区では、現職の候補が減税を掲げる無所属候補に敗れるという結果が出ています。これは、政党そのものが支持されているのではなく、具体的な「政策」を支持する賢明な有権者が増えてきていることの表れと言えるでしょう。