中国では、静かに、しかし着実に「潤(ルン)」という言葉が広がっています。これは「国外脱出」を指すネットスラングで、特に若者を中心に、社会への不安や不満から現状を抜け出そうとする動きです。競争の激化や言論統制の強化といった背景があり、この「潤」の波は一般層だけでなく、中国富裕層にも及んでいます。実際に日本へ「潤」を実現した人々は、どのような生活を送っているのでしょうか。本記事では、中央区のタワマンに住むある富裕層の事例を通して、その生活の実態と背景に迫ります。
中国からの「潤」の背景
「潤」は単なる海外旅行や短期滞在とは一線を画します。中国国内の激しい競争、経済的な不確実性、強まる言論統制やプライバシー懸念などが、特に若者や経済的に余裕のある層の間で不安や不満を高め、「現状からの脱出」を決断させています。
東京タワマンでの富裕層「潤」生活:李氏の事例
日本に「潤」を実行した中国富裕層の一人、李氏は、舛友雄大氏の著書で紹介されています。著者が彼と初めて会ったのは、彼が住む中央区のタワマンでした。小柄ながら岩のような顔立ちの李氏は、まだ日本での生活に慣れない様子も見せていました。小学2年生の一人息子と2人で暮らす彼の部屋(3LDK、75平米)は、日本語の教科書が積み上がるなど、生活感が漂う雑然とした様子でした。
大きな窓からはシティビューが広がり、眺望は魅力的です。李氏がこの場所を選んだ理由は、中央区の「静かさ」、美しい「景色」、そして「学校が近い」ことでした。港区なども検討したそうですが、このタワマンは日本人だけでなく、イタリア人やドイツ人もおり「国際的」な雰囲気が決め手となったといいます。一方、文京区で見た一戸建ては「雰囲気が重苦しい」と感じたそうです。
東京のタワマンから見たシティビューのイメージ写真
日本のタワマンの共用スペース、特に1階のラウンジを彼は高く評価しています。スタバのような居心地の良さ、テーブル間の十分なスペースを快適だと感じていました。李氏は現在このタワマンを賃貸していますが、新たに新築マンション物件の購入に向けて具体的な準備を進めている段階です。
中国からの「潤」、特に富裕層による日本への移住は、中国国内の社会経済的な背景が色濃く反映された現象です。彼らは、安全性、教育環境、生活の質などを考慮して日本、中でも利便性と快適さを兼ね備えた東京のタワマンを選択しています。李氏の事例は、「潤」が単なる移住ではなく、中国社会の変化に対応した新たな生活様式の模索であることを示唆しています。
参照元:舛友雄大著『潤日(ルンリィー):日本へ大脱出する中国人富裕層を追う』(東洋経済新報社)より