ボーイング機事故多発のなぜ?エアバスとの比較・シェア・「思想の違い」から見る両社の行方

インドや韓国で相次ぐ航空機事故は、いずれもボーイング製でした。40年の節目を迎える日航機墜落事故もボーイング機。なぜボーイング機は事故が多いのでしょうか?エアバス機との比較、日本や世界のシェア、そして両社の「思想の違い」に焦点を当て、その背景を探ります。本記事は桜美林大学航空・マネジメント学群教授の戸崎肇氏による分析に基づいています。

近年の報道に接すると、ボーイング機の事故やトラブルに関するニュースが目立つように感じられます。もちろん、航空事故は複合的な要因によって発生するものであり、特定のメーカー製航空機に事故が集中しているように見えることが必ずしもその航空機の安全性に問題があることを直接示すわけではありません。しかし、立て続けに発生するインシデントは、利用者の不安を煽り、メーカーの信頼性に対する疑問を投げかけます。

世界にはボーイングとエアバスという、民間航空機製造の二大巨頭が存在します。両社は長年にわたり熾烈な競争を繰り広げてきましたが、近年、特に安全性や製造品質に関する認識において、両社の間で違いが語られることが増えています。ボーイングは長い歴史を持ち、かつては「エンジニアリング主導」の文化で知られていました。一方、エアバスはより新しい企業であり、設立当初からヨーロッパ各国の共同事業体という性格を持ち、設計や製造プロセスにおいて異なるアプローチを取ってきました。

両社の最も根源的な違いの一つとして、「設計思想」が挙げられます。ボーイングは伝統的にパイロットの技量を最大限に活かす設計思想を重視してきたと言われます。対照的に、エアバスはコンピューターによる制御(フライ・バイ・ワイヤ)と、システムが一定の安全な飛行領域(エンベロープ)を超えないように保護する思想を強く打ち出しています。この思想の違いは、緊急時の操縦特性や、システム異常発生時の挙動に影響を与えうるものです。

日本の航空会社でも運用されるボーイング大型機 安全性やシェアに関する分析の対象日本の航空会社でも運用されるボーイング大型機 安全性やシェアに関する分析の対象

また、「製造プロセス」や「品質管理」に対する取り組みも異なると指摘されることがあります。特にボーイングは、過去に大規模な組織再編や企業文化の変化を経ており、コスト削減や生産効率を重視するあまり、製造現場の品質管理体制に歪みが生じたのではないかという懸念が報じられることもあります。エアバスももちろん製造上の課題に直面することはありますが、ボーイングと比較して、近年の品質問題に関する報道は少ない傾向にあります。

日本国内の航空会社を見てみると、長らくボーイング機が多数を占めてきました。全日本空輸(ANA)は伝統的にボーイング機の主要顧客であり、日本航空(JAL)も多くのボーイング機を運用しています。しかし近年、JALがエアバスのA350型機を大量導入するなど、勢力図に変化も見られます。世界の航空市場全体では、エアバスが一時的にボーイングのシェアを上回る状況も生まれており、両社の競争は新たな局面を迎えています。日本の航空会社にとって、安全性、燃費、経済性、そして将来的なサポート体制などを総合的に判断し、最適な機材を選択することが求められています。

ボーイング機の事故がなぜ多く見えるのかという問いに対する明確な答えは一つではありません。統計的に見れば、飛行回数あたりの事故率は劇的に改善しており、現代の航空機は極めて安全な乗り物です。しかし、近年のボーイングで発生した重大事故や製造上のトラブルは、同社の組織文化や「思想の違い」に起因する問題が表面化している可能性を示唆しています。エアバスとの比較を通じて見えてくるのは、単なる技術的な優劣だけでなく、企業としての哲学や優先順位が、最終的な製品の安全性や信頼性に大きく影響を及ぼすという現実です。今後のボーイングがどのように品質管理を立て直し、失われた信頼を回復していくのか。そして、両社の「思想の違い」が今後の航空機の進化にどのような影響を与え、世界の空の安全と勢力図をどう変えていくのか、注視していく必要があります。

参照:
https://news.yahoo.co.jp/articles/ef83cce71e823bd945f70bf559ee69737206d4ee