ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、ロシアによるウクライナ全土への過去最大規模の空爆があったと発表した。この攻撃は、ドローン728機と巡航ミサイルまたは弾道ミサイル13発による複数の波状攻撃だったという。ゼレンスキー大統領は「深刻な攻撃」を非難し、「停戦や和平実現に向けた多大な努力が続けられる中で、ロシアだけがそれを拒み続けている」と述べた。
ロシアによる過去最大規模の空爆
この8日夜から9日朝にかけての攻撃は、アメリカのドナルド・トランプ大統領がウクライナへの武器供与を再開すると発表した直後に発生した。ウクライナ東部や首都キーウでは定期的に攻撃が続いているが、今回のロシアによる空爆は、国内のどの地域も例外なく被害を受けたとされる。特に、ポーランドとの国境から約90キロに位置し、軍事・人道支援の中継拠点となっている都市ルツクは、9日未明の攻撃で最も大きな被害を受けた。西部の都市リヴィウやリウネでも爆発が報告されている。
ウクライナ キーウ州でのロシア軍攻撃による火災と消防活動
一方ロシア当局は、ウクライナによるドローン攻撃が、同国との国境に近いクルスク州であり、3人が死亡、7人が負傷したと発表した。また、5歳の男児が負傷し、翌日に死亡したと報じられている。
トランプ氏の対プーチン批判とウクライナ支援再開
米メディアによると、先週発表されたウクライナへの武器供与一時停止について、トランプ氏は事前に知らされていなかったとされる。トランプ氏は8日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する不満を強めていると述べ、記者団に対し「正直に言えば、プーチンからはたくさんのたわごとを浴びせられている」と発言。「彼はいつも我々に対して非常に友好的だが、結局のところ、それには何の意味もない」と語った。これに対し、ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は、「我々はこの件について比較的冷静に受け止めている。トランプの話し方は一般的にかなり辛辣で、使う表現もそうだ」と応じた。両首脳は定期的に連絡を取り合っているが、これまでのところ、ウクライナでの停戦に向けた具体的な進展にはつながっていない。トランプ氏はかつて、1日で停戦を実現できると話していた。先週のプーチン大統領との電話会談後、トランプ氏は「非常に不満だ」と述べ、「彼(プーチン)は最後までやり遂げようとしている。ただ人を殺し続けるだけだ。そんなのは駄目だ」と語っていた。
トランプ政権は先週、ウクライナへの軍事支援を一時停止すると発表したが、8日、記者団から誰がこの決定を下したのかと問われたトランプ大統領は、隣にヘグセス国防長官が座るなか、「知らない。君が教えてくれないか?」と答えた。米ニュースサイト「アクシオス」によると、この決定の撤回により、地対空ミサイル「パトリオット」10発がウクライナに送られる可能性があるという。ウクライナは、ロシアによるミサイルおよびドローン攻撃への対抗手段として、迎撃ミサイルに大きく依存しており、こうした攻撃は頻度も規模も増加の一途をたどっている。
トランプ大統領は8日、共和党のリンジー・グレアム上院議員が提出した対ロシア制裁法案についても「検討中だ」と述べた。この法案は、ロシアと貿易を行う国に対して500%の関税を課す内容を盛り込んでいる。トランプ大統領は1月の就任以来、ロシアに対する制裁を示唆してきたが、これまでのところ発動していない。6月には、「制裁には多額の費用がかかる」と述べ、ロシアとウクライナの間で和平合意が成立するかどうかを見極めたいとの姿勢を示していた。しかし先週、トランプ大統領はプーチン大統領との間で「制裁について多くの議論を交わした」と明かし、「彼(プーチン)は制裁が近づいていることを理解している」と語っている。
各国の動向と停戦交渉の現状
ウクライナのゼレンスキー大統領は今週、伊ローマで開催されている「ウクライナ復興会議」に出席しており、ローマ教皇レオ14世と会談したほか、アメリカのキース・ケロッグ特使との会談も予定している。この会議には、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相をはじめとする欧州首脳も多数出席しており、メルツ首相は9日、戦争解決に向けた外交的手段は尽き果てたと述べ、ウクライナに防空支援を提供する意向を示した。ロシアとウクライナの間では、今年に入ってから2回の停戦交渉が行われたが、それ以降の協議は予定されておらず、両国とも外交による解決に対して悲観的な見方を示している。こうしたなか、ロシア軍はウクライナ東部での夏季攻勢を強めている。ロシアのペスコフ報道官は9日、「我々は前進している。ウクライナ側は日々、新たな現実を受け入れざるを得なくなっている」と語った。
今回のロシアによるウクライナ全土への大規模な空爆は、停戦への道筋が見えない中で、紛争の激化を示す最新の出来事である。同時に、トランプ米大統領の対プーチン氏への発言や支援再開の動き、ゼレンスキー大統領の外交活動など、国際社会の反応も多様化している。ウクライナが必要とする防空能力の強化が喫緊の課題となる一方、停戦交渉の停滞は、今後の情勢がさらに不透明であることを示唆している。
参考資料:
- BBC News
- Yahoo News Japan (https://news.yahoo.co.jp/articles/730bbea1ac74a95a465afc5befb22a889bdf3e03)