ドナルド・トランプ前米大統領が8日(現地時間)、韓国の適正な防衛費分担金として100億ドル(約1兆5600億円)に言及したことは、前政権時代から繰り返してきた「韓国安保ただ乗り論」を象徴するものだ。第1期トランプ政権下の2019年に行われた第11回在韓米軍防衛費分担金特別協定(SMA)交渉では、米国は韓国に対し、当時の分担金(約1100億円)の5倍以上にあたる50億ドル(当時約6000億円)の引き上げを要求し、交渉は長期化した。最終的な妥結は、ジョー・バイデン現大統領の就任直後の2021年3月だった。
トランプ氏の「債権者」的計算のどこが間違っているのか
トランプ氏は、米大統領選挙中の昨年10月16日のタウンホールミーティングで、韓国防衛のために米国は兵力4万人(実際は約2万8500人)を配置しているにもかかわらず、「韓国は金を払っていない」と主張した。その前日の10月15日には「シカゴ経済クラブ」での対談で、当時妥結したSMAに触れ、「私が大統領だったら、彼らに年間100億ドルを出させる」「韓国はマネーマシン(money machine)だ」と豪語した。韓米は昨年10月初めに第12回SMAを締結し、2026年分担金を2025年比8.3%増額の1兆5192億ウォン(約11億ドル)と決めたが、トランプ氏はその9倍もの金額を引き出せると述べている。彼は2期目の任期が始まってもなお、「金持ちの国である韓国が金を払わない」という主張を繰り返している。
SOFAとSMA:「特別」協定が生まれた背景
トランプ氏の防衛費分担金に関する攻撃は、しばしば正確でない情報に基づいている。トランプ氏は債権者のように支払いを催促するが、そもそも防衛費分担金は韓国が払う必要のない費用であった。在韓米軍の法的地位を定めた韓米駐留軍地位協定(SOFA)では、在韓米軍の運営と維持に必要な費用はすべて米国が支払うことになっている。
ところが、米国の経済状況が厳しくなったことを受け、在韓米軍の駐留費用の一部を韓国も分担する特別協定(SMA・Special Measures Agreement)が結ばれた。この協定に「特別」(Special)という言葉が入っているのは、SOFAで定められた「在韓米軍運営維持費米国全額負担」の原則を、この協定の有効期間中のみ一時的に中断させる「特別な措置」であるためだ。
増加し続ける韓国の負担金
韓国の「ただ乗り論」もまた事実と異なる。これまで韓国の分担金は着実に増額されてきた。トランプ氏が在任していた2020年の韓国の分担金は約1兆389億ウォン(約1100億円)であり、バイデン政権発足後も分担金は増え続けた。2026年の韓国の分担金は、今年比8.3%引き上げられた1兆5192億ウォン(約1600億円)となる。さらに、2027年から2030年までの分担金は、毎年前々年度の消費者物価指数の増加率分だけ引き上げることで合意している。
GDPだけでは見えない韓国の実際の負担:日本との比較
また、日本と比較しても、韓国の分担金が特別に少ないわけではない。約5万4千人の在日米軍が駐留する日本の分担金は約3000億円(約21億ドル)であり、名目上は韓国の約2倍となっている。しかし、日本の国内総生産(GDP)は韓国の2倍以上であり、在日米軍の規模も在韓米軍(約2万8500人)の約2倍に近い。
京畿道漣川の臨津江で行われた韓米合同渡河訓練。韓国陸軍が提供した写真には、訓練に参加する韓国軍と米軍の部隊が写っている。
「2022国防白書」によると、2021年基準で在韓米軍駐留に伴う韓国の直接・間接的支援費用は3兆4430億ウォン(約3600億円)に達し、韓国が実際に負担する金額は日本と同程度の水準にある。韓国は人件費、軍事建設、軍事支援の3項目に対する防衛費分担金の直接支援に加え、KATUSA(在韓米軍勤務韓国陸軍兵)兵力支援、基地整備および移転関連費用、基地周辺整備費用などを「国防予算外」として支援している。さらに、予算を伴わない間接支援として、無償供与土地の賃貸料評価額、訓練場使用費用、税金免除および公共料金減免、交通施設利用料免除などが含まれる。
北韓大学院大学のキム・ドンヨプ教授は、「トランプ大統領の計算方法は間違っている。トランプ大統領は在韓米軍の規模を4万5千人としているが、実際は約2万8500人だ。また、税金、交通料免除なども含めれば、かなりの金額になる」とし、「(今後の)交渉に臨むことになれば、駐韓米軍の直接・間接的費用を一緒に計算しなければならない」と指摘している。
結論:包括的な費用計算の重要性
以上の分析から、トランプ前大統領が主張する100億ドルという金額は、韓米駐留軍地位協定(SOFA)の原則や、特別協定(SMA)が持つ一時的な例外としての性格を無視しているだけでなく、韓国が提供する直接・間接的な多岐にわたる支援を考慮していないことがわかる。韓国は既に相当な防衛費分担金を負担しており、実際の負担額はGDP比や駐留米軍規模を考慮した場合、日本と比較しても同程度の水準にあるという専門家の指摘は、防衛費分担金の議論がいかに複雑で、包括的な視点が必要であるかを示唆している。安保協力の費用負担に関する議論は、単一の指標や名目上の金額だけでなく、協定の背景、歴史的経緯、そして直接・間接的な全ての支援を含めて評価されるべきである。
参照元
- ソース記事URL (ハンギョレ新聞提供)