南極の氷底から謎の電波信号、10年来の科学ミステリー

南極の氷床下から届く、現行の素粒子物理学では説明できない「異常な電波信号」の正体解明に、科学者たちが挑んでいます。これは10年来の謎であり、米航空宇宙局(NASA)の「南極衝撃過渡アンテナ(ANITA)」実験中に偶然捉えられたものです。ANITAは、宇宙の果てから飛来する「幽霊粒子」とも呼ばれるニュートリノを探索するために行われました。

NASAのANITA実験で使用された、南極上空で観測を行う大型気球NASAのANITA実験で使用された、南極上空で観測を行う大型気球

ニュートリノ探索の背景とANITA実験

宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギー宇宙粒子であるニュートリノは、質量がほとんどなく、あらゆる物質をほぼ素通りするため、「幽霊粒子」と呼ばれるほど検出が困難です。過去10年間、ニュートリノ探索のため様々な実験が行われ、NASAの「南極衝撃過渡アンテナ(ANITA)」実験もその一つです。この実験では、2006年から2016年にかけて、南極の氷床上空に観測機器を搭載した大型気球が飛ばされました。

検出された異常信号の謎

このANITAによる観測の最中、研究者たちはニュートリノとは異なる、極めて異常な電波信号を捉えました。この信号は地平線下から届いており、これは信号が数千キロメートルに及ぶ南極大陸の岩盤を透過して検出器に到達したことを示唆していました。しかし、既知の物理法則では電波は通常岩石に吸収されるため、ANITAチームはこれを現行の素粒子物理学では説明できない現象だと結論しました。

他の観測所による追跡調査

この異常信号の起源を特定するため、アルゼンチンのピエール・オージェ観測所など、他の観測機器による追跡観測や解析も行われました。しかし、ピエール・オージェ共同研究グループによる研究結果(米学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ」に掲載)によると、ANITAが捉えたような同様の信号は、これまでの観測では確認されていません。

ニュートリノと宇宙線の関連性

科学者たちは、高エネルギーニュートリノの主要な発生源の一つが、地球の大気圏に衝突する「宇宙線」だと考えています。宇宙で最も高エネルギーの粒子とされる宇宙線は陽子や原子核から構成され、その加速メカニズムは大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を凌ぐとも言われます。ニュートリノは、宇宙線やその発生源の謎解明の鍵となり得ます。しかし、前述の通り、ニュートリノは検出が非常に困難です。唯一の望みは、水や氷といった物質とのまれな相互作用です。ウィスコンシン大学マディソン校の物理学准教授ジャスティン・バンデンブルック氏によると、ANITAは、水や氷との相互作用を利用して、ニュートリノが南極の氷中で原子と衝突する際に発生する短時間(10億分の1秒)の電波パルスを探知する目的で設計されました。この現象は、通常の宇宙線が大気圏で引き起こす粒子のシャワーが、氷の中で「逆さま」に起こるようなものです。ANITAはまた、地球に降り注ぐ超高エネルギー宇宙線が氷に衝突して発生させる閃光のような電波バーストにも反応し、その電波を解析して信号源を特定しようと試みました。

謎の継続

米ペンシルベニア州立大学のステファニー・ウィッセル准教授(物理学・天文学・天体物理学)が述べるように、ANITAが捉えたこの異常な電波信号の起源は、依然として特定されていません。この10年来の科学ミステリーは、素粒子物理学における既存のモデルに挑戦を突きつける可能性を秘めており、今後のさらなる研究や観測による解明が待たれています。

ソース: CNN