東海道新幹線「雨に弱い」のはなぜ?1964年開業時の歴史的背景と最新対策

東海道新幹線は、豪雨のたびに運休や遅延が頻発し、その脆弱性がたびたび話題になります。特に帰省シーズンなどに運休となれば、主要駅のホームには大勢の家族連れなどが行き場を失い、その光景はニュースでおなじみとも言えるほどです。日本の大動脈である東海道新幹線が、なぜこれほどまでに雨に弱いのか。その理由は、1964年の東京オリンピックを前にした建設の歴史に深く根ざしています。

開業時の「盛り土」構造が弱点の根源

東海道新幹線が雨に弱いとされる背景には、その建設時の特殊な事情がありました。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が指摘するように、東海道新幹線には「構造的な問題」が存在します。1964年の東京オリンピック開催に間に合わせるため、東海道新幹線は1959年に着工され、わずか5年後の1964年には開業しました。この急ピッチでの建設と、コンクリート構造物を大量に建設する予算が不足していたことが、現在の弱点につながっています。

その結果、多くの区間で「盛り土」と呼ばれる、土を盛って人工的に作られた土台の上に線路が敷設されることになりました。東海道新幹線の全線515キロのうち、約半分にあたる44%がこの盛り土区間となっています。

他の新幹線との比較と「盛り土」のリスク

東海道新幹線の建設方針は、その後に開業した新幹線とは対照的です。例えば、1972年開業の山陽新幹線は、高架橋やトンネルが多く、盛り土区間はわずか8%に過ぎません。さらに1982年開業の上越新幹線に至っては、ほぼ全線が高架またはトンネル区間であるため、盛り土区間はわずか1%と極めて少ないです。

この盛り土構造は、大雨が降ると内部に大量の水がたまりやすく、崩壊や流出を引き起こす恐れがあります。万が一、線路が崩壊すれば、列車が脱線する危険性も高まります。実際、1990年9月の台風19号では、三河安城~名古屋間の盛り土が崩壊し、東海道新幹線は98本もの列車が運休する事態となりました。

梅原氏は「東海道新幹線は日本の大動脈で、2023年度は1日平均44万人が利用し、上下合わせて平均370本もの列車が運行しています。そのため、ひとたび自然災害で運行休止となると、その影響は甚大です」と、その社会的影響の大きさを強調します。

東海道新幹線の盛り土区間を走行するN700系新幹線「のぞみ」の様子東海道新幹線の盛り土区間を走行するN700系新幹線「のぞみ」の様子

気候変動とJR東海の対応策

東海道新幹線の弱点を補うため、JR東海は国鉄時代から、盛り土区間の排水性や遮水性を高める対策を進めてきました。しかし、近年、気候変動の影響による異常気象が頻発し、従来の設計や対策ではカバーしきれないほどの豪雨が相次いで発生するようになりました。気象庁の統計によると、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨の年間平均発生回数は、統計を開始した1976年からの10年間が13.9回だったのに対し、2015年からの10年間では23.9回と、約1.7倍に増加しています。

運転規制基準の変更と「土壌雨量指数」導入

こうした状況を受け、JR東海は2024年6月、東海道新幹線の運転規制基準を変更しました。従来の運転見合わせ基準は以下の3つでした。

  1. 1時間の雨量が60ミリ以上
  2. 24時間の連続降雨量が150ミリ以上、かつ1時間の雨量が40ミリ以上
  3. 24時間の連続降雨量が300ミリ以上、かつ10分間の雨量が2ミリ以上

今回の変更では、このうち(2)と(3)の基準を廃止し、代わりに「土壌雨量指数」という新しい指標が導入されました。土壌雨量指数とは、土壌中にどれだけの水がたまっているかを数値化した指標であり、沿線に設置された59カ所の雨量計の値を用いて算出されます。JR東海によれば、これまでの基準は過去24時間の降雨の単純な累積だったため、24時間以上前に降った雨の影響を十分に反映できないという課題がありました。土壌雨量指数を導入することで、より詳細な土壌の状態を把握し、運転規制の判断を最適化することが期待されています。

まとめ

東海道新幹線が雨に弱いという特性は、1964年の東京オリンピックに合わせた建設時の歴史的経緯と、それに伴う「盛り土」構造の多用が深く関わっています。これは、短期間での開通と予算の制約という当時の背景を色濃く反映したものです。近年増加する異常気象や豪雨に対し、JR東海は国鉄時代からの対策に加え、最新の技術を取り入れた「土壌雨量指数」の導入など、安全運行のための努力を続けています。日本の経済と社会を支える大動脈としての役割を果たすため、今後も気候変動に適応した安全対策の継続と進化が期待されます。


参考文献

  • オリジナル記事 (Yahoo!ニュース / AERA dot.)
  • JR東海 公式発表資料 (運転規制基準に関する情報など)
  • 気象庁 統計データ (降雨に関するデータ)