お笑いカルテット「ぼる塾」の田辺智加さん(41)が、自身のYouTubeチャンネルで6cmの卵巣腫瘍を摘出する手術を受けていたことを公表し、大きな反響を呼んでいます。田辺さんは「自覚症状なんて全くなかったんです。本当に『まさか自分が』という感じ……」と語り、無症状で腫瘍が進行していた状況を明かしました。この経験は、多くの人々、特に女性にとって、卵巣腫瘍の早期発見がいかに重要であるかを改めて認識させるきっかけとなっています。
診断されたのは「皮様嚢腫(ひようのうしゅ)」と呼ばれる良性の卵巣腫瘍で、脂肪、毛髪、歯などが混在する奇形腫の一種です。特に20〜30代の女性に多く見られるとされています。田辺さんのように、自覚症状がまったくないまま腫瘍が大きくなるケースは珍しくなく、わかばファミリークリニック院長で婦人科医の水谷佳敬医師は、卵巣が「沈黙の臓器」と呼ばれている理由を強調しています。
「沈黙の臓器」が意味するもの:無症状で進行する卵巣腫瘍
卵巣の腫瘍は、ある程度の大きさになるまで症状が出ないことが多く、特に皮様嚢腫のような良性腫瘍はその傾向が顕著です。中には、妊婦のように腹部が大きくなって初めて受診するケースもあるほどです。田辺さんの腫瘍も、婦人科ではなく内科での定期検査が偶然のきっかけで見つかりました。普段の血液検査の流れで受けた腹部の画像検査で「卵巣に影がある」と指摘され、婦人科受診を勧められたといいます。
このように、他の目的で受けた腹部エコーやCT・MRI検査などで偶然卵巣の異常が見つかることは珍しくありません。水谷医師は、他科の医師が異常に気づくことの重要性を指摘し、偶然の発見がなければ早期治療が難しい現実があることを強調しています。
ぼる塾 田辺智加さんが卵巣腫瘍摘出手術について語る様子。健康意識向上と早期発見の重要性を伝える。
卵巣腫瘍の早期発見と高まる健康意識
近年、卵巣腫瘍が若年層で発見されるケースが増加傾向にあり、その背景には健康意識の高まりがあるとされています。水谷医師によれば、皮様嚢腫の具体的な原因や、なりやすい体質、生活習慣との明確な因果関係は現在のところ不明です。しかし、腫瘍自体が増加しているというよりも、健康診断や検査を受ける機会が増えたことで、発見されやすくなったというのが実情だと説明しています。
メディアやSNSを通じて健康に関する情報に触れる機会が増え、人々のヘルスリテラシーが向上した結果、早めの受診につながり、早期発見に至るケースが増えていると考えられます。これは、自らの健康に積極的に向き合う現代社会の傾向を反映していると言えるでしょう。
良性・悪性の判断と大切な人への向き合い方
卵巣腫瘍が良性か悪性かの判断は、見た目だけで容易にできるものではありません。確定診断には手術が必要となることも多いのが現状です。エコー、MRI、腫瘍マーカーなどである程度の予測は可能ですが、最終的には摘出した腫瘍の病理検査によって確定されます。卵巣腫瘍の約80%は良性ですが、年齢が上がるにつれて悪性腫瘍の割合が増加する傾向にあります。
診断や治療に直面する際には、本人だけでなく周囲の理解と支えが大きな鍵となります。特に家族やパートナーの声かけには注意が必要だと水谷医師は語ります。「無理に励まさないこと」が大切であり、「大丈夫、気にしすぎ」といった言葉は、かえって患者にプレッシャーを与える可能性があります。代わりに、「一緒に調べてみよう」や「話してくれてありがとう」といった、共感を示す姿勢が精神的な支えとなります。
婦人科受診へのハードルと賢い第一歩
婦人科受診に対してハードルを感じる女性は少なくありません。水谷医師は、そうした現状に対し「できることから始めてほしい」と呼びかけています。20歳からの子宮がん検診が推奨されており、定期的な検診を通じて婦人科受診のハードルを下げることは非常に重要です。
もし婦人科での内診に抵抗がある場合でも、腹部超音波検査で卵巣の異常がわかる場合もあります。お腹の膨らみなど自覚症状がある場合は、内科や外科でも保険診療で超音波検査を受けることが可能です。その上で、必要があれば改めて婦人科に相談するという方法も有効です。
田辺さんは自身の動画で、「まさか自分が、なんて思ってた。でも今は、本当に検査してよかったって思ってます」と締めくくりました。水谷医師は、田辺さんの公表が多くの女性が検診を受けるきっかけになったと評価し、「ちょっとした違和感を見過ごさず、気になるけど大したことないかもと思わず、受診してほしい」と改めて訴えています。自覚症状がないまま静かに進行する「沈黙の腫瘍」は、自身とは無縁と思っている人の中にこそ潜んでいるかもしれません。田辺さんの経験は、その現実と向き合い、自らの健康を守るための行動を促す力強いメッセージとなっています。
参考資料
- ぼる塾田辺の食べるわよちゃんねる (YouTubeチャンネル)
- FRIDAYデジタル: 無症状のまま巨大化する ぼる塾・田辺の経験から学ぶ「卵巣腫瘍」の危険性 (Yahoo!ニュース掲載記事)
- 水谷佳敬医師: わかばファミリークリニック院長、婦人科医