ロシア経済の「戦時経済」に陰りか?自動車産業の停滞と景気後退の兆候

ウクライナ侵攻後、国際社会からの厳しい経済制裁に直面しながらも、ロシアは「戦時経済」と称される堅調な経済を維持してきました。しかし、その勢いに陰りが見え始めています。特に自動車業界では、販売不振を背景に工場の稼働日数を削減する動きが相次ぎ、自動車販売店の倒産も多発。これまで持ちこたえてきたロシア経済は、「低迷期」へと向かうのでしょうか。

ロシア最大手アフトワズの週4日勤務と給与削減の動き

ロシアの独立系メディア「MASH」は7月30日、同国最大の自動車メーカーであるアフトワズが、9月下旬から全工場の従業員に対し「週4日勤務」を導入し、給与も少なくとも2割削減する計画だと報じました。アフトワズ側は業界誌に対し「まだ決定していない」とコメントしていますが、3万人以上とされる従業員の間には動揺が広がり、一部で退職の動きも出始めているとのことです。また、7月下旬にはアフトワズ以外にも2つの大手自動車メーカーが勤務日数の短縮を発表するなど、業界全体で労働環境の悪化が懸念されています。

ロシアのアフトワズ工場を視察し、自動車産業の状況を確認するプーチン大統領の様子。ロシアのアフトワズ工場を視察し、自動車産業の状況を確認するプーチン大統領の様子。

深刻化する自動車販売不振とディーラー閉鎖の現状

こうした業界全体の動きの背景には、深刻な販売不振があります。ロシアの有力紙「イズベスチア」は7月30日、今年上半期の新車販売台数が前年同期比で26%減少したと報じ、「市況はますます厳しさを増している」と伝えています。さらに別の独立系メディア「モスクワ・タイムズ」は7月8日、今年これまでにロシア国内の約4000ある自動車販売店のうち、約200店舗がすでに閉店したと報じました。

自動車が売れなくなった主な要因としては、車両価格の高騰や自動車ローンの高金利が挙げられます。ウクライナ侵攻後、欧米や日本の大手自動車メーカーがロシア市場から相次いで撤退したことで、その空席を国産メーカーや中国メーカーが埋める形で販売数を一時的に回復させていました。しかし、その回復にもブレーキがかかり、国内の自動車産業は再び厳しい局面に直面しています。

深刻な販売不振に直面し、労働日数削減を発表したロシア最大手自動車メーカー、アフトワズの工場外観。深刻な販売不振に直面し、労働日数削減を発表したロシア最大手自動車メーカー、アフトワズの工場外観。

経済閣僚が認める「景気後退の瀬戸際」

プーチン政権の経済閣僚の一人は、6月に開催されたサンクトペテルブルク経済フォーラムにおいて、ロシア経済が「景気後退の瀬戸際」にあるとの認識を示しました。ウクライナ侵攻後、ロシア経済は軍需産業が景気を牽引する形で欧米からの経済制裁に耐え抜いてきたとされてきました。しかし、その一方で、過度なインフレーションや深刻な人手不足など、経済全体の歪みが顕著になっています。

ウクライナ侵攻後の経済制裁下で景気後退の瀬戸際に立つロシア経済の現状を示すイメージ。ウクライナ侵攻後の経済制裁下で景気後退の瀬戸際に立つロシア経済の現状を示すイメージ。

「戦時経済」は、このまま本格的な低迷へと向かうのでしょうか。ウクライナ侵攻を巡り、長期戦も辞さない構えを見せるプーチン政権ですが、その足元の経済は徐々に揺らぎ始めていると言えるでしょう。

参考文献

  • MASH
  • イズベスチア
  • モスクワ・タイムズ