モペットの危険性:無免許運転の大学生が招いた深刻な事故と法的責任

近年、街中で見かける機会が増えたペダル付き電動バイク、通称「モペット」。見た目は電動アシスト自転車に似ているものの、多くは道路交通法上「原動機付自転車」に分類され、運転には免許の取得が必須です。中には時速約60キロメートルまで出せる高性能な車種も存在し、その手軽さゆえに危険性が看過されがちです。今回、無免許でモペットを運転し、重篤な事故を引き起こした大学生の公判を通して、通販サイトで容易に入手できるこの乗り物が、運転手の認識次第でいかに「凶器」となり得るか、その恐ろしさと社会的責任について深く掘り下げます。

繰り返された違反行為と安易なモペット購入の背景

22歳の大学生である被告の男は、自動車免許取得後も速度超過などの交通違反を繰り返していました。計7回にわたる違反の結果、2023年には道交法違反で執行猶予付きの有罪判決を受け、運転免許が取り消されました。車を運転できない不便さから、「とにかく速度が出る乗り物が欲しかった」と供述しています。判決後にモペットを購入したものの、運転に免許が必要であることを知ったのは、購入後のことでした。それにもかかわらず、男はモペットを「自転車のような感覚」で日常的に乗り回し、「事故を起こさなければ大丈夫」という甘い認識で運転を継続。この安易な考えが、後に甚大な被害を生む結果を招きます。

押収されたペダル付き電動バイク「モペット」のイメージ写真押収されたペダル付き電動バイク「モペット」のイメージ写真

飲酒・二人乗り・逆走…事故に至るまでの経緯

昨年10月4日夜、季節外れの30度を超える暑さの中、男は友人をモペットの後ろに乗せ、東京都世田谷区の自宅を出発しました。焼き肉店でビールと焼き肉を堪能した後、再び二人乗りで帰路につく途中、事態は最悪の方向へ進みます。男は「進入禁止(自転車を除く)」の交通標識を無視し、一方通行の道を逆走し始めたのです。対向車を避けながら、時速33キロメートルで交差点を直進しようとした際、前方を走っていた自転車が右折。男は慌ててブレーキをかけハンドルを切りましたが、避けきれずに衝突。運転していた56歳の男性は道路中央に投げ出され、頭から血を流し意識不明の重体となりました。

大学生が無免許運転で事故を起こした東京都世田谷区の現場写真大学生が無免許運転で事故を起こした東京都世田谷区の現場写真

事故後の卑劣な行動と逮捕

「今度事故を起こしたら刑務所行きは確実だ」。事故を起こした男は、数分後に現場を通りかかった女性が110番通報する間にパニックに陥り、同乗していた友人に「自分は執行猶予中だから、お前が運転していたことにしてくれ」と懇願しました。友人はしぶしぶこれを受け入れ、駆けつけた警察官に対し自分が運転者であると虚偽の申告を行い、取り調べを受けることになります。しかし、男はその後も反省することなく、事故から2カ月後には新たにモペットを購入し、運転を継続していました。友人が警察に虚偽申告を認めたことをきっかけに、男は今年1月に逮捕されるまで、危険な運転を続けていたのです。

事故現場の道路に設置されていた自転車を除く一方通行の進入禁止標識事故現場の道路に設置されていた自転車を除く一方通行の進入禁止標識

被害者の深刻な後遺症と巨額の賠償問題

事故に巻き込まれた男性は、脳挫傷により10日以上意識が戻らない状態が続きました。今年に入りようやく意思疎通ができるまでに回復したものの、左半身には麻痺が残り、自力での歩行は困難です。さらに、高次脳機能障害の影響で、事故前の生活に戻ることは非常に難しいと診断されています。自動車運転処罰法違反(無免許危険運転致傷)などの罪に問われた男の公判では、被害者への賠償金が1億円から2億円にも上るとされ、その支払いが大きな焦点となりました。この悲惨な事例は、モペットの無免許運転がいかに深刻な法的・経済的責任を伴うかを浮き彫りにしています。

結論

手軽に乗れると誤解されがちなモペットですが、その多くが原動機付自転車に分類され、適切な免許と交通ルールの遵守が不可欠です。本件の事例は、無免許運転、飲酒運転、危険運転が、他者の人生を破壊し、運転者自身もまた巨額の賠償責任と社会的制裁に直面するという厳しい現実を突きつけます。日本社会において、モペットの適切な利用に対する知識の普及と、法規制への認識向上は喫緊の課題です。一人ひとりが交通安全に対する意識を高め、モペットを運転する際には必ず免許を所持し、交通ルールを厳守することが、このような悲劇を繰り返さないための最も重要な一歩となります。

参考資料