近年、アニメ業界では昭和や平成に流行した名曲、いわゆる「懐メロ」がエンディングテーマや挿入歌として頻繁に起用されるリバイバルブームが到来しています。『パリピ孔明』での「気分上々↑↑」のED起用や、『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』における「ハレ晴レユカイ」「気まぐれロマンティック」の使用は、このトレンドの代表例と言えるでしょう。2024年7月から放送が始まった夏アニメでも、この流れはさらに加速しており、様々な作品で往年の名曲がカバーされ、新たな魅力を放っています。本記事では、その具体的な事例を掘り下げ、アニメにおける懐メロブームの背景と魅力を解説します。
アニメ界を席巻する「懐メロ」リバイバルの背景と魅力
アニメ作品において懐メロが起用される背景には、複数の要因が考えられます。一つは、かつてこれらの楽曲を聴いて育った世代にとっての「ノスタルジー」です。懐かしいメロディや歌詞がアニメの映像と共に流れることで、視聴者は過去の記憶と現在の感動が融合する独特の体験を得られます。また、若い世代にとっては、新鮮で魅力的な楽曲として映り、新たな発見へと繋がります。
さらに、名曲の持つ普遍的なメッセージ性や楽曲としての完成度の高さも、起用される大きな理由です。時代を超えて愛されるこれらの曲は、アニメのテーマやキャラクターの心情を深く表現する力を持っています。オリジナルとは異なるアーティスト(特に声優陣)によるカバーは、楽曲に新たな解釈と魅力を吹き込み、聴き手にとって新鮮な驚きを提供します。これにより、多世代にわたる視聴者にアプローチし、作品全体の魅力を高める効果が期待できるのです。
2024年夏アニメで見られる注目の「懐メロ」採用事例
この夏、特に注目を集めている懐メロ採用アニメをいくつかご紹介します。それぞれの作品がどのように名曲を取り入れ、その世界観を豊かにしているのかを見ていきましょう。
『ばっどがーる』:声優ユニットが体現するロックンロール・スピリット
今期の“まんがタイムきらら枠”アニメとして注目される『ばっどがーる』では、作中で声優を務める橘杏咲、花宮初奈、松岡美里、花井美春が結成した音楽ユニット「天狼群(てんろうぐん)」が、懐メロのカバーに挑戦しています。
彼女たちの1stデジタルシングルは、1981年にリリースされた横浜銀蝿の「ツッパリHigh School Rock’n Roll(登校編)」です。この曲は昭和の不良文化を象徴するアンセムとして広く知られ、『今日から俺は!!劇場版』など様々な作品でカバーされてきたほか、最近では岡田准一が出演するマクドナルドのCMにも使用され、世代を超えて親しまれています。天狼群によるカバーは、原曲が持つワイルドな魅力に、声優ならではのフレッシュで可愛らしい歌声が加わり、新鮮なギャップを生み出しています。
続く2ndデジタルシングルでは、GLAYのライブ定番曲である「彼女の“Modern…”」をカバー。TERUのクールな歌唱とは対照的に、声優陣が披露する可愛らしい歌声は、新たな解釈と魅力を楽曲にもたらしています。
『宇宙人ムームー』:ゆるSFと往年の名曲が織りなす癒やしの世界
『宇宙人ムームー』の第2クールでは、ED曲にユニコーンが1993年に発表した名曲「すばらしい日々」が採用されました。奥田民生が作詞・作曲を手掛けたこの楽曲は、栗コーダーカルテットによるリコーダーアレンジが施され、ムームー(CV.小桜エツコ)と梅屋敷桜子(CV.春海百乃)による癒し系の歌声が、曲の穏やかな雰囲気と絶妙にマッチしています。
人気アニメ『その着せ替え人形は恋をする』の劇中歌シーン。主人公の喜多川海夢と五条新菜がカラオケで盛り上がる様子が描かれ、懐メロブームの象徴となっている。
さらに、同アニメの第1クールEDでは、たまが1990年にリリースしたデビュー曲「さよなら人類」のカバーが使用されていました。こちらも1990年代初頭のバンドブームを象徴する一曲であり、そのノスタルジックでどこか神秘的な雰囲気が、『宇宙人ムームー』のゆるい異世界SFという独特の世界観によく馴染み、作品の魅力を一層引き立てています。
『その着せ替え人形は恋をする』Season 2:青春の葛藤を映し出すインディーロック
『その着せ替え人形は恋をする』Season 2では、劇中歌としてロックの名曲が使用され、大きな話題となりました。特に第13話から第14話にかけて、喜多川海夢と五条新菜がクラスメイトと共にカラオケに行く場面で、菅谷乃羽が選曲した楽曲が流れたシーンは印象的です。
選曲されたのは、THE PINBALLSの「片目のウィリー」、神聖かまってちゃんの「ロックンロールは鳴り止まないっ」、そしてGOING STEADYの「銀河鉄道の夜」という、どれも個性的でメッセージ性の強い楽曲ばかりです。中でも「ロックンロールは鳴り止まないっ」は、菅谷がほぼフルコーラスで歌い上げ、魂のこもったシャウトが響き渡る中で、新菜の過去や海夢との恋愛模様が浮き彫りになる名シーンとなりました。
これらの3曲は、平成の王道ヒットチャートというよりは、インディー・サブカル層から熱烈に支持されてきた楽曲です。青春時代の葛藤、孤独、痛みといった普遍的な感情が表現されており、コスプレを通じて自己表現を模索する作品のテーマと見事に合致しています。原作者である福田晋一の選曲センスの高さがうかがえる事例であり、作品に深みとリアリティを与えています。
まとめ
アニメにおける「懐メロ」のリバイバルブームは、単なる過去の流行の再燃に留まらず、世代間の架け橋となり、作品に新たな息吹を吹き込む重要なトレンドとなっています。昭和や平成の名曲が持つ普遍的な魅力と、現代のアニメが織りなす映像表現が融合することで、視聴者は懐かしさだけでなく、新鮮な感動や発見を得ることができます。この流れは今後も続き、アニメと音楽の新たな可能性を切り開いていくことでしょう。
出典
- Yahoo!ニュース (Real Sound)