メガフラッシュ雷、世界新記録を更新:その驚異的なメカニズムと危険性

2017年10月、米テキサス州東部で発生した落雷が、わずか数秒のうちにミズーリ州カンザスシティーまで約829キロメートルもの距離を伝播したことが、最新の研究で明らかになりました。この「メガフラッシュ」と呼ばれる現象は、7月31日に米気象学会の学術誌に掲載された研究によってその正確な距離が確認され、雷の水平移動距離における新たな世界記録を樹立しました。これまでの記録は、2020年4月に観測された約768キロメートルの稲妻でした。研究者たちは、衛星データの新たな計算手法を導入し再評価を進める中で、この驚異的なメガフラッシュを発見しました。このような極端な規模の閃光は以前から存在していましたが、検出技術とデータ処理方法の飛躍的な向上により、現在ではその実態が徐々に解明されつつあります。

テキサス州からミズーリ州へ829kmを伝播し、世界記録を樹立したメガフラッシュ雷。テキサス州からミズーリ州へ829kmを伝播し、世界記録を樹立したメガフラッシュ雷。

メガフラッシュとは何か?その発生メカニズム

すべての雷は、大規模な静電気放電現象です。雷雨の中で、氷と水の粒子が衝突することで電子が移動し、電荷が蓄積されます。この電荷が大気の保持能力を超えて強力になった際に、雷が発生し、雲を貫通したり地面に落ちる稲妻として放電されます。通常の雷が約16キロメートル以内にとどまるのに対し、「メガフラッシュ」とは、約97キロメートル以上移動する雷のことを指します。

研究の筆頭著者であり、ジョージア工科大学暴風雨研究センターの上級科学者であるマイケル・ピーターソン氏の指摘によると、メガフラッシュは嵐の最も激しい中心部ではなく、比較的弱い外側の部分で発生する傾向があり、しばしば嵐が過ぎ去った後に観測されることが多いといいます。メガフラッシュが雲の中を伝播する過程で、地表に複数の落雷を引き起こすこともあります。ピーターソン氏によれば、「雷雨全体に匹敵するほどの雷が、たった一回の閃光で雲から地面に落ちることもある」と、その破壊力の大きさを説明しています。

メガフラッシュの発生条件と広範な影響

ピーターソン氏が分析した衛星データによると、メガフラッシュは非常に稀な現象で、雷雨からの発生確率は1パーセントにも満たないとされています。これらの雷を発生させる嵐は、一般的に寿命が長く、数千平方キロメートルに及ぶ広大な規模を持つことが特徴です。ピーターソン氏は、この広範さがメガフラッシュの「主な要因」である可能性が高いと見ており、小規模な嵐では水平方向への雷の移動が制限されるため、メガフラッシュは発生しにくいと説明します。しかしながら、ピーターソン氏は「実際にどのような条件が揃うと、このような規模の雷が発生するのか、正確には分かっていない」と付け加えており、さらなる研究の必要性を示唆しています。

メガフラッシュは稀であるにもかかわらず、そのリスクは非常に現実的です。強力な放電によって山火事を引き起こしたり、嵐の中心部から遠く離れた場所で甚大な被害をもたらす恐れがあるため、雷が引き起こす最悪のシナリオの一つとされています。ピーターソン氏は、「メガフラッシュがどこから来るかは分からない。落ちる場所が見えるだけだ」と述べ、その予測の難しさを強調しています。公共の安全を確保するためには、メガフラッシュの規模や、それが予期せぬ場所で発生するという事実を理解することが極めて重要です。雷による負傷の多くは、雷が嵐から実際にどれだけ遠くまで伝わるのか、そして危険がどれだけ長く続くのかを過小評価していることが原因で発生しているのです。

参考文献

  • 米気象学会学術誌 (American Meteorological Society Journals) に掲載された研究
  • CNN.co.jp (2023年7月31日掲載記事に基づく)