北朝鮮、元山葛麻海岸観光地区を大々的に宣伝も観光客誘致に課題山積か

北朝鮮が真夏の避暑シーズンに合わせ、全国のリゾート施設を盛んに宣伝しています。特に注目を集めているのは、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が10年がかりで開発した元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区ですが、その成果に対しては依然として懐疑的な見方が多く、観光客誘致の道のりは険しいとみられています。

全国リゾート施設の宣伝と「党の恩情」

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は8月3日付で、「党の恩情のもとに整備された文化休息地のあちこちで人民の喜びに満ちた笑い声が響いている」と報じ、全国各地のウォーターパークや海水浴場を紹介しました。掲載された写真には、鴨緑江(アムノッカン)遊園地、咸興(ハムン)ウォーターパーク、西海閘門(ソヘカンムン)海水浴場、綾羅(ルンラ)ウォーターパークなどで滑り台やダイビングを楽しむ住民らの様子が捉えられています。同紙は「灼熱の猛暑が続く今、全国各地に現代的に整備されたウォーターパークと海水浴場が、多くの人で賑わっている」と伝え、「子どもたちを世界に誇れるように幸せに暮らせるようにするのが、党の意志だ」と強調しています。

北朝鮮のウォーターパークで楽しむ人々(労働新聞報道写真)北朝鮮のウォーターパークで楽しむ人々(労働新聞報道写真)

金総書記肝いりの「元山葛麻海岸観光地区」

特に、7月に開場した元山葛麻海岸観光地区に関する報道は大きく扱われました。この葛麻地区は、金総書記が2014年から10年をかけて推進してきた「宿願の開発事業」であり、6月24日の竣工式には娘と妻の李雪主(リ・ソルジュ)氏とともに出席し、自らテープカットを行いました。7月1日の開業以降、北朝鮮メディアは連日、このリゾート施設を広報しています。当初は北朝鮮住民が主な利用者とされていましたが、当局は今後、ロシア人観光客をターゲットに積極的な誘致を目指しています。実際、7月にはロシアからの団体観光客13人が平壌を経由し、同地を訪れたとされています。

現実と課題:高額な費用、長い移動時間、厳格な統制

しかしながら、このような大々的な宣伝とは裏腹に、元山葛麻の観光事業が本当に軌道に乗るかには疑問が残ります。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は8月1日、同地を訪れたロシア人女性アナスタシア・サムソノバ氏の証言を報じ、「海岸全体が空っぽで、リゾート全体に自分たちしかいないようだった」と伝えました。

これは、北朝鮮の観光インフラが依然として未整備である上に、観光にかかる費用や移動時間の負担が大きいことが主な要因とみられています。WSJによれば、元山葛麻を1週間訪れるパッケージ旅行の総費用は、北朝鮮当局への支払い1400ドル(約20万円)と、ロシア旅行代理店への3万5000ルーブル(約6万5千円)を合わせて、約2000ドル(約29万円)にものぼるとのことです。

また、移動時間も大きな障壁です。ロシアのモスクワやサンクトペテルブルクから平壌までのフライトは約15時間、さらに平壌から元山までは200kmの距離を列車で約10時間かけて移動しなければならないとされています。

さらに、北朝鮮の厳しい統制と検閲の下で、外国人の自由な観光が難しい点も大きな制約です。外国人観光客は住民との接触が厳しく制限され、写真や映像の撮影にはガイドの許可が必要とされます。過去には経済特区・羅先(ラソン)を訪れた西側観光客の「トイレも許可制」といった否定的な口コミが広まり、観光客の受け入れが突然中断された例もあります。

持続可能な観光産業構築への道

WSJによると、今週にもロシアから第2の団体観光客が元山葛麻海岸観光地区を訪れる予定だといいます。北朝鮮がこうした高額な費用、長い移動時間、そして厳しい行動制限といった課題を克服し、国際的な観光客を安定して誘致し、持続可能な観光産業を築けるかどうかが今後の注目点となるでしょう。


参考文献