世界が訪れるシャッター街の昭和喫茶「白泉堂」:大阪に息づく懐かしき「がもよん」の魅力

高度経済成長期に日本の各地で花開いた個人経営の喫茶店は、時代の移り変わりとともにその数を減らし続けています。しかし、そこには単なる飲食スペースを超えた、独特の心地よい空気感と、訪れる人々の心に深く刻まれる物語が息づいています。多くの人々にとって、心温まる思い出が詰まった喫茶店は、かけがえのない存在ではないでしょうか。この連載では、一杯のコーヒーが紡ぎ出す縁をきっかけに、店主の人生や常連客の記憶、そして店を取り巻く背景にある物語を紐解き、「人と店の物語」を未来へ記録していきます。

本稿では、連載第3回として、大阪市城東区に広がる城東中央商店街の一角にひっそりと佇む「白泉堂」を訪ねました。

蒲生四丁目「がもよん」に息づく昭和の面影

シャッターを下ろしたままの店舗が目立つ城東商店街において、全国各地はもとより海外からも多くの客が訪れるという喫茶店、それが「白泉堂」です。大阪市城東区蒲生四丁目は、地元で「がもよん」の愛称で親しまれるエリア。大阪メトロ蒲生四丁目駅5番出口から南東へ足を進め、城東商店街のアーケードを抜け、スギドラッグ脇の「城東中央商店街」へと入ると、目的地の白泉堂はそこにあります。

シャッター街に佇むレトロな「白泉堂」外観と、店頭に並ぶ駄菓子の段ボールシャッター街に佇むレトロな「白泉堂」外観と、店頭に並ぶ駄菓子の段ボール

駄菓子屋が魅せる“大人の秘密基地”への入口

「白泉堂」の店先には、お菓子がぎっしり詰まった段ボール箱が所狭しと並べられ、店のスペースからはみ出すほどの活気を見せています。頭上にはカラフルなバルーンや、食欲をそそるいか焼の提灯が揺れ、奥にはクレーンゲーム機が鎮座。まるで子どもの頃にタイムスリップしたかのような、懐かしい光景が広がります。

店内には五円チョコやフエラムネ、ビッグカツといった定番の駄菓子に加え、ポット入りの珍味、袋パン、アイドルのトレーディングカード、アニメキャラクターグッズなど、約1000種類もの商品が絶妙な配置でレイアウトされています。店主の高柳明弘さん(72歳)は、「一つひとつ確認しながら並べるのに2時間、片付けるのに1時間かかる」と語るほど、その陳列には並々ならぬ愛情と手間がかけられています。

時が止まった空間「白泉堂」喫茶コーナーの魅力

駄菓子屋の活気ある空間を抜け、「喫茶」と書かれたオレンジ色の扉を開くと、そこにはまるで秘密基地のような、こぢんまりとした喫茶店が現れます。駄菓子屋が子どもたちの楽園であるならば、この喫茶コーナーはまさに大人のための隠れ家。「がもよん」を訪れた人々が癒しを求める、とっておきの場所です。

店内は、曲線を描くカウンター、惑星を模したようなユニークなランプシェード、リアリティあふれる写真が使われたメニューパネル、そしてエメラルドグリーンが鮮やかなチェアなど、昭和時代の風情をそのままに保っています。壁にはお孫さんが書いた習字が飾られるなど、家庭的な温かさも感じられ、訪れる人々を優しく包み込みます。一番安いアイスもなかは1個150円、人気のいか焼きは220円と、1000円あれば十分に「豪遊」できるほどの良心的な価格設定も、この店の大きな魅力の一つと言えるでしょう。

シャッター街に灯る希望の光

城東商店街の一角に、ひっそりと、しかし確かな存在感を放つ「白泉堂」。そこは単なる喫茶店ではなく、懐かしい駄菓子と温かい人情が息づく、世代を超えて愛されるコミュニティスペースです。シャッター街という厳しい現実の中にあっても、国内外から人々を惹きつける白泉堂の魅力は、昭和の温もりと、店主高柳さんの細やかな心配りが生み出す唯一無二の空間にあります。多くの人々の記憶に残り続ける「白泉堂」は、今も変わらず、がもよんの地に温かい光を灯し続けています。