ウクライナによるドローン攻撃に苦戦するロシアが、第二次世界大戦を彷彿とさせる「バイク部隊」という秘策を導入したと報じられています。ウクライナメディアのキーウポストは6日(現地時間)、ポクロフスク総攻勢においてロシア軍が中国製バイクを活用した消耗戦を展開し、戦況の転換を図っていると伝えました。この斬新かつ無謀とも見える戦術の背景と、その目的について深く掘り下げます。
ウクライナ侵攻におけるロシアのプーチン大統領
ドローンによる戦況変化とロシアの初期構想
ロシアが2022年2月にウクライナへ本格的に侵攻を開始した際、ロシア軍は塹壕と塹壕が対峙する「線形戦線」を想定していました。そのため、ウクライナの強固な人為障壁を突破すべく、大規模な歩兵部隊と機甲戦力を動員しました。しかし、実際の戦場ではその構想は大きく覆されました。
ウクライナ軍のドローンがロシア軍の防御ラインを自由に突破し、歩兵や機甲戦力が効果的に機能しなくなったのです。これにより、前方と後方という線形戦線の概念は薄れ、ドローンの活躍によって双方ともに完全に掌握できない「中間地帯」が拡大しました。この中間地帯をいかに多く確保するかが、戦場支配の核心となりつつあります。
「バイク突撃」戦術の具体的な運用と目的
こうした状況下でロシア軍が選択したのが、第二次世界大戦を彷彿とさせるバイク戦術です。これは、ウクライナの防御ラインに生じたわずかな隙間を狙い、小規模な歩兵部隊を投入する戦術へと変化しました。毎日10〜20人のロシア兵が安価な中国製バイクに乗り、膠着状態にある戦線の中間地帯へ時速約80キロで突進します。そして、ウクライナ軍陣地との間に塹壕を掘り、陣地を築くという方法です。この戦術の主な目標は、ウクライナ軍の迫撃砲やドローン運用チームといった後方兵力を打撃し、さらに補給路を遮断することにあります。
ウクライナ軍のある指揮官は、「歩兵戦力不足で戦線が広がる状況で、防御陣地の間に200〜300メートルの間隔ができると、ロシア軍がその間をバイクで走り抜けて侵入してくる」と説明しています。「多くの場合、掃討に成功するが、取り逃がすこともある」と語り、その対応の難しさを示唆しています。
ウクライナ軍陣地へ中国製バイクで突進するロシア軍兵士。これは新しい消耗戦術の一例である。
無謀な戦術の代償とウクライナ軍の評価
ロシア軍のバイク戦術は、非常に無謀な側面を持ち合わせています。報告によると、投入される兵力の約75%が目標地点に到達する前に射殺されるか、捕虜になるという壊滅的な損害を被っています。昨年ロシアがこのバイク戦術を開始した当初、ウクライナ軍は混乱しましたが、すでに慣れており、対応は難しくないという評価も出ています。今年4月、ロシア軍はウクライナ東部ポクロフスク戦線で約100台のバイクを動員した攻勢を仕掛けましたが、このバイク部隊の兵力はほとんどが帰還できませんでした。
イギリスのタイムズ紙はこの戦術を「プーチンのバイク自殺突撃隊(suicide bikers)」と表現しました。また、イギリスのサン紙は昨年7月、ロシアのバイク部隊の甚大な被害映像を報じる記事の中で、ウクライナのジャーナリストの言葉を引用し、「バイク部隊が壊滅した場所は共同墓地のような本当の地獄」、「毎日遺体が山のように積もっている」と伝えています。
ロシアが「バイク戦術」に固執する理由
これほど大きな犠牲を伴いながらも、ロシア軍がバイク戦術に固執するのには明確な理由があります。それは、圧倒的な兵力差を背景に絶えず突撃を繰り返すことで、ウクライナ軍に疲労を蓄積させ、防御ラインに亀裂を生じさせようと考えるからです。ドネツク州で服務中のウクライナ軍の幹部はタイムズ紙に対し、「ロシア軍のバイク部隊の死は無駄ではない」とし、「この過程を繰り返せば、最終的に我々には計り知れない大きな負荷となる」と語っています。
このバイク戦術は、兵力を惜しまないロシアの新たな消耗戦の一環であり、ウクライナ軍に対する持続的な圧力をかけることを目的としています。戦場の状況が刻々と変化する中で、この無謀に見える戦術が今後のウクライナ戦線にどのような影響を与えるか、引き続き注目が必要です。
参考文献:
- キーウポスト (Kyiv Post)
- 英タイムズ (The Times)
- 英サン (The Sun)