米国経済は現在、雇用市場の減速と物価上昇という「二重苦」に直面しており、その背景にはトランプ前政権が発効させた相互関税の影響がある。米中央銀行(FRB)の利下げ観測が高まる中、景気停滞と物価上昇が同時に進行する「スタグフレーション」への懸念が強まっている。
雇用市場の鈍化と長期化する失業
米労働省が7日(現地時間)に発表したデータによると、失業手当を2週以上請求する「継続失業手当請求」件数は、先月20日から26日の期間で197万4000件に達した。これは新型コロナウイルス感染症が拡大した2021年11月以来、約3年9カ月ぶりの高水準である。トランプ前大統領による関税政策が本格化する前の今年1月初旬の185万件と比較しても大幅に増加している。また、1日に公開された先月の非農業雇用者増加幅は7万3000件にとどまり、市場予測の10万件を大きく下回った。
先週(7月27日~8月2日)の新規失業手当請求件数も22万6000件となり、前週から7000件増加し、ダウジョーンズの専門家予測(22万1000件)を上回った。ロイター通信はこれに対し、「雇用主は大規模な解雇は避けているものの、採用活動を増やすことにためらいが見られ、失業状態が長期化している」と分析している。
米国経済の指標を示すグラフ
トランプ関税が経済活動を抑制
トランプ前政権の相互関税発動後、経済の不確実性が高まり、企業活動が一段と萎縮し始めているとの見方が強まっている。米人口調査局が4日に発表したデータによると、6月の製造業新規受注件数は6117億ドル規模で、前月比4.7%減少した。さらに、米国供給管理協会(ISM)が公表した先月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は48となり、景気拡大と縮小の境目とされる50を下回った。これは、貿易摩擦とそれに伴う経済の先行き不透明感が、企業の投資意欲や生産活動に悪影響を及ぼしていることを示唆している。
製造業の活動を示す工場風景
物価上昇圧力とスタグフレーションの懸念
雇用をはじめとする景気全般に黄信号が灯る中、関税の余波で物価は上昇傾向を維持している。6月の米消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比2.7%となり、4月(2.3%)、5月(2.4%)に続いて上昇を続けた。先月、ニューヨーク連邦準備銀行が算出した1年後の予想インフレーション推定値も3.1%と、前月比0.1ポイント上昇しており、インフレ期待の高まりがうかがえる。ブルームバーグは、もし本格的なスタグフレーションが到来した場合、トランプ前政権は「1970年代後半のオイルショック時のような経済危機状況に直面するだろう」と警告している。
米国経済は、雇用市場の鈍化と物価上昇という相反する問題に同時に直面している。トランプ前政権の関税政策が経済の不確実性を高め、スタグフレーションという深刻なシナリオへの懸念を深めている状況だ。今後の米中央銀行の金融政策決定は、この複雑な経済状況にどのように対応するかが注目される。