トランプ政権、WTO体制終焉を宣言:80年自由貿易秩序の終焉と世界の保護貿易化

米国が長年世界の貿易秩序を支えてきた多角的貿易システムに大きな転換を突きつけました。米東部時間7日午前0時1分をもって、米国が世界68カ国と欧州連合(EU)に課す相互関税が発効。これに合わせ、貿易政策を総括する米通商代表部(USTR)のグリア代表は、30年にわたり続いてきた世界貿易機関(WTO)体制の「終焉」を宣言しました。これは、第二次世界大戦終結以来80年続いた自由貿易秩序に終止符を打つ可能性を示唆しており、日本を含む世界経済は保護貿易主義の荒波に直面することになります。

トランプ大統領がホワイトハウスで経済状況を説明する様子。グラフを使い米国経済の堅固さを強調している。トランプ大統領がホワイトハウスで経済状況を説明する様子。グラフを使い米国経済の堅固さを強調している。

米通商代表部が「WTO体制の終焉」を宣言

USTRのグリア代表は、発効日当日にニューヨーク・タイムズへの寄稿で、WTOが「名目上の経済的効率性を追求し、166の加盟国の貿易政策を規制するよう設計されたものの、もはや有名無実となり、世界秩序を維持することも、持続可能でもない」と断言しました。その上で、彼は「いまわれわれは新しいトランプラウンドを目撃している」と主張し、米国が主導する新たな貿易体制の到来を宣言しました。この発言は、米国が従来の国際協調路線から一線を画し、自国の利益を最優先する姿勢を明確にしたものです。

80年にわたる自由貿易秩序の終結

グリア代表の宣言は、1945年に米国主導の連合国によって確立されたブレトン・ウッズ体制(50年間)と、その後の多角的貿易体制の根幹を成し遂げたWTO体制(30年間)という、約80年にわたる自由貿易秩序がトランプ大統領の就任からわずか200日で終わりを告げたことを意味します。これは、戦後の国際経済システムにおける極めて重要な転換点であり、国際貿易、投資、そして国際関係全般に広範な影響を及ぼすことが予想されます。

米国の相互関税、その詳細と世界への影響

米国が68カ国とEUに課した相互関税は、トランプ大統領が「解放の日」と命名した4月2日に発表されて以来、交渉と猶予を繰り返しながら127日ぶりに発効しました。これまで自由貿易の恩恵を享受してきた世界経済は、この発効によって保護貿易という未知の領域へと足を踏み入れることになります。各国が自国の利益を守るために「関税戦争」に巻き込まれる可能性が高まり、世界経済の不確実性は増幅されるとの見通しが強まっています。

米国発の相互関税は、国ごとに最低10%から最高41%が適用されます。シリアには最も高い41%、ラオスとミャンマーにはそれぞれ40%、スイスには39%といった高率の関税が課されます。しかし、国ごとに例外品目や投資規模が異なるため、各国の得失計算は複雑化しており、その全体像を把握することは容易ではありません。

トランプ政権による関税政策の推移

トランプ大統領は就任からわずか10日後の2月1日、麻薬類であるフェンタニルの流入を厳しく取り締まっていないという名分を掲げ、メキシコ、カナダ、中国に対して初の関税発動を発表しました。これに続き、3月には鉄鋼とアルミニウムに品目関税を課し、4月には各国に対する相互関税を発表して、世界経済を混沌の渦中に追いやりました。さらに、4月と5月には自動車と部品に関税を課す方針も示しました。品目関税は指定した発効日に施行されたものの、相互関税については8月1日まで猶予を繰り返し、相手国との交渉が行われていました。

各国との相互関税合意と日本への影響

最終的に、米国は英国と相互関税率10%で合意したのをはじめ、ベトナムとは20%、フィリピンとは19%、インドネシアとは19%、そして日本、EU、韓国とはそれぞれ15%で合意しました。これらの合意には、関税率を引き下げる見返りとして、相手国からの市場開放や対米投資の約束も含まれています。

具体的には、関税率15%を条件に、EUは6000億ドル、日本は5500億ドル、韓国は3500億ドルの対米投資を行うことになりました。韓国政府はこれらのほとんどが貸付や貸付保証の形態であると説明していますが、トランプ大統領は韓国、日本、EUからの対米投資を、米国が返済する必要のない「プレゼント」であると主張しており、認識のずれが浮き彫りになっています。日本にとっては、関税の直接的な影響に加え、巨額の対米投資が今後の経済戦略にどのような影響を与えるかが注目されます。

結論

トランプ政権によるWTO体制の終焉宣言と相互関税の発効は、約80年にわたって世界を支えてきた自由貿易秩序の終焉を明確に示唆するものです。これは、国際貿易、投資、そして世界の政治経済情勢に計り知れない影響を与える転換点となるでしょう。保護貿易主義の台頭と「関税戦争」の可能性は、世界経済の不確実性を増大させ、特に貿易に大きく依存する日本経済にとっても新たな課題を突きつけています。今後の国際社会における貿易政策の動向、そして各国がこの新たな時代にどう適応していくのかが、引き続き注視される必要があります。

参考文献

  • AP通信、聯合ニュースなどの国際通信社による報道
  • 米通商代表部(USTR)関係者の声明および寄稿
  • 主要国際経済メディアによる分析記事