7月20日投開票の参院選において、自民党が従来保守層からの支持を一部失う中、その受け皿として注目を集めたのが参政党です。今回の選挙で大幅に議席を伸ばした同党が掲げる「日本人ファースト」のスローガンや、独自の新日本国憲法(構想案)は、その内容を巡って様々な議論を呼んでいます。本稿では、参政党の躍進の背景、議論の的となっている憲法構想案の具体的な条文、そして憲法学の専門家による見解を詳細に掘り下げます。
参院選での躍進と新たな政治的影響力
参政党は今回の参院選で、これまでの1議席から14議席へと大幅に議席を増やし、非改選議席を含めると参院で計15議席を確保しました。この躍進は、日本の政治地図に新たな動きをもたらしています。選挙後、参院議院運営委員会理事会において、常任委員長のポストが15人以上の会派に割り当てられることが決定。これにより参政党は、初めてとなる懲罰委員長のポストを獲得し、国政における影響力を一層強めています。
選挙期間中、同党が強力に訴えた「日本人ファースト」というスローガンは、多くの有権者の共感を呼び、支持拡大の大きな要因となりました。しかし、このスローガンが外国人を巡る諸政策の見直しを提唱するものであったため、「差別的である」との批判も同時に寄せられ、賛否両論を巻き起こしました。
議論を呼ぶ「新日本国憲法(構想案)」の核心
「日本人ファースト」の理念が色濃く反映されているのが、参政党が今年5月に公表した「新日本国憲法(構想案)」です。この構想案には、現行憲法とは異なる独自の条文が盛り込まれており、特に以下の点が大きな議論の対象となっています。
参政党が公表した憲法草案のスクリーンショット
構想案の「第五条」には、「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める」と明記されています。このうち「日本を大切にする心」という抽象的な基準をどのように量るのかについて、参政党の神谷宗幣代表(47)は、投開票日のTBSラジオ選挙特番で「宣誓してもらう」ことを一案として挙げています。しかし、このような基準の曖昧さは、その定義や適用を巡る課題を提起しています。
また、「第四条」に記された「国は、主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する」という条文も、SNSを中心に大きな波紋を呼びました。これは現行憲法の「国民主権」の原則を否定しているのではないか、との懸念が生じたためです。神谷代表は6月のX(旧Twitter)投稿で、「国家の主権を守らないと国民主権は成立しないんです。国民主権は当たり前のことです」と説明しましたが、「なぜあえて明記しないのか」という疑問に対し、十分な説明ではないとの批判も多く上がっています。なお、神谷代表は開票センターでの会見で、国民主権について「心配なら書けばいい」と発言していることも報じられています。
「創憲」と「改憲」:憲法改正に対する独自の立場
参院選での躍進後も、その草案が度々話題に上がる参政党ですが、彼らは一般的に言われる「改憲派」ではありません。神谷代表は6月に発刊した著書『参政党と創る新しい憲法』(青林堂)の中で、「参政党は、憲法を改正する単なる『改憲』ではなく、憲法を一から創る『創憲』という考え方に立っています」と明言しています。これは、施行78年の歴史を持つ現行の日本国憲法を、部分的に修正するのではなく、全体を作り直すという壮大な構想を示しています。
専門家が見る「創憲」の法的手続きと真意
参政党が目指す「創憲」というアプローチについて、憲法学者である東京都立大学の木村草太教授は、その法的手続きと真意に疑問を呈しています。木村教授は、本紙の取材に対し、以下のように述べています。
「憲法96条の改憲手続きは、憲法を丸ごと入れ替える革命の手続きではなく、日本国憲法の修正のための手続きを定めています。これを受け、国会法68条の3は、『憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする』と定めています。」
続けて木村教授は、「このため、改憲を提案する政党は、『項目』を区分して、部分的な修正案を提案するのが標準です。自民党や日本維新の会の公約集でも、そのような提案方法がとられています」と解説しました。
この見解からすると、参政党が目指す「創憲」は、現行の法的手続きでは実現不可能であるように見えます。しかし、木村教授は、問題は手続きの実現可能性だけではないと指摘します。教授は神谷代表の真意について、次のように評価しています。
「神谷代表は国会議員ですから、当然、国会法の規定を知っているはずです。知っていて、あえて、憲法を丸ごと入れ替える提案をしているわけですから、可能・不可能以前に、提案が本気ではないと理解すべきです。」
この指摘は、参政党の「創憲」構想が、単なる政治的主張や戦略の一環である可能性を示唆しており、その本質的な意図を巡る議論を深めるものです。
結び
今回の参院選における参政党の躍進は、日本の政治における新たな動きを象徴しています。「日本人ファースト」のスローガンや「新日本国憲法(構想案)」は、国民の間に様々な議論を巻き起こし、政治的関心を高める一方で、その内容や法的な実現可能性については専門家からも厳しい目が向けられています。これらの議論は、今後の日本の憲法や政治のあり方を考える上で重要な論点となるでしょう。有権者は、このような新しい政治勢力の主張と、それに対する多角的な見解を理解し、冷静に判断することが求められます。
参考資料
- 参政党公式HP
- TBSラジオ 選挙特番 (2025年7月20日放送)
- 神谷宗幣 (2025). 『参政党と創る新しい憲法』青林堂.
- X (旧Twitter) 神谷宗幣氏投稿 (2025年6月)
- 日本国憲法
- 国会法