夏休みシーズンが本格化し、各映画館では数々の話題作が公開される中、アニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が圧倒的な集客力を示し、日本映画界に新たな歴史を刻んでいます。その驚異的な興行収入は連日報じられ、社会現象とも呼べる盛り上がりを見せていますが、この大ヒットがフジテレビにどのような利益をもたらすのか、その内情はあまり知られていません。映画の直接的な収益構造と、テレビ局が得る「見えない」恩恵について深掘りします。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が打ち立てた歴史的記録
7月18日に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、公開からわずか3日間で興行収入55.2億円を突破。日本映画史上におけるオープニング成績、初日成績、そして単日成績の3つの記録を塗り替えるという快挙を成し遂げました。さらに、8月4日には興行収入176億円を突破したことが映画公式X(旧Twitter)で発表され、これにより日本映画(実写を含む)の歴代興収ランキングでトップ10入りを果たすという、目覚ましい成功を収めています。この驚異的な数字は、「鬼滅の刃」というコンテンツが持つ計り知れない影響力を改めて証明するものです。
人気アニメ「鬼滅の刃」の劇場版「無限城編」のキービジュアル
アニメ「鬼滅の刃」の軌跡とフジテレビの役割
「鬼滅の刃」は、吾峠呼世晴氏による同名漫画を原作としたアニメシリーズで、2019年に放送が開始されました。当初はTOKYO MXなどのローカル局を中心に放送されていましたが、その爆発的な人気に伴い、シーズン2にあたる「無限列車編」(2021年10月期)からはフジテレビ系列の全国ネットで放送されるようになりました。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の公開に際し、フジテレビは過去作の一挙放送を大規模に展開しました。公開直前の6月28日から7月17日にかけては、『公開記念 全七夜特別放送』と題し、「無限列車編」「遊郭編(前後編)」「刀鍛冶の里編(前後編)」「柱稽古編(前後編)」が連日放送されました。これらの放送では、新規描き下ろしの提供イラストや、各キャラクターの視点で物語を振り返る特別映像(新規ボイス付き)が盛り込まれるなど、映画公開に向けた期待感を高める工夫が凝らされていました。特に、6月28日放送回では映画『無限城編 第一章』の本予告が“世界初公開”され、ファンの間で大きな話題となりました。さらに、映画の大ヒットを記念し、8月11日から15日にかけて毎日昼1時50分から「柱稽古編」の緊急再放送も決定し、テレビと映画の連携による相乗効果を狙っています。
フジテレビは映画ヒットで「直接儲からない」?製作委員会の構造とテレビ局の真の恩恵
一部では「『鬼滅』の映画でフジは儲かる」という声も聞かれますが、実は今回の劇場版『無限城編』の興行収入がいくらヒットしても、フジテレビに直接的な収益が入ってくるわけではありません。その理由は、フジテレビが同映画の製作委員会に参加していないためです。この映画の製作委員会は、集英社、アニプレックス、Ufotableの3社で構成されており、映画の興行収入から得られる直接的な利益は、この3社に分配される仕組みになっています。
しかし、これはフジテレビが「鬼滅の刃」から利益を得ていないという意味ではありません。「鬼滅の刃」は言うまでもなく超ヒットコンテンツであり、そのアニメの再放送や劇場版の地上波放送は爆発的な高視聴率を獲得します。これによりフジテレビは、CM枠の販売などで大きな利益を得ることが可能です。特にテレビ業界で重視される「コア視聴率」(テレビ各局が重視する13~49歳の個人視聴率)において、7月に放送された「鬼滅の刃」関連番組はいずれも同時間帯で断トツ1位を記録しました。この高い視聴率は、広告主にとって非常に魅力的であり、フジテレビは間接的に、そして戦略的に大きな恩恵を受けているのです。
結論
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の歴史的な大ヒットは、映画業界に留まらず、テレビ業界にも多大な影響を与えています。フジテレビは製作委員会の一員ではないため映画の直接的な興行収入を得ることはありませんが、関連するアニメ番組の放送を通じて、圧倒的な視聴率、特にコア視聴率を獲得し、広告収益という形で大きな恩恵を受けています。「鬼滅の刃」のような国民的コンテンツを放送できることは、テレビ局にとって計り知れないブランド価値と広告価値をもたらし、その存在感を不動のものとする重要な戦略と言えるでしょう。