米国と中国は、長引く貿易摩擦の緊張緩和に向け、関税を巡る休戦措置をさらに90日間延長することに合意しました。この決定は、世界経済の不確実性が高まる中で、両国間の経済関係に一時的な安定をもたらすと期待されています。延長がなければ、両国間の関税率は大幅に引き上げられる予定であり、今回の合意はそうした事態を回避する上で重要な意味を持ちます。
トランプ米大統領が中国への関税停止措置を90日間延長する大統領令に署名する様子、ホワイトハウスにて
米中双方の正式発表と延長の具体的な内容
今回の関税休戦延長は、トランプ米大統領が自身の交流サイト(SNS)を通じて、高関税の賦課を米東部時間11月10日午前0時01分まで停止する大統領令に署名したと発表したことから始まりました。これを受け、中国商務省も現地時間12日、米国製品への追加関税を90日間停止すると公表し、両国の合意が確認されました。
休戦の期限は当初、米東部時間12日午前0時01分(日本時間13日午後1時01分)に設定されており、延長がなければ、米国が中国製品に課す関税率は145%に、中国が米国製品に課す関税率は125%にそれぞれ引き上げられる見込みでした。しかし、今回の延長により、米国が中国に課す関税率は10%の基本税率と20%のフェンタニル関連関税を合わせた30%に維持され、中国は米国製品に対する関税を10%で据え置くことになります。
延長の背景にある両国の思惑と専門家の見解
トランプ大統領令は、米国が中国との経済関係における「貿易相互主義の欠如」と、それに起因する「国家的・経済的安全保障上の懸念」に対処するため、協議を継続する意向を示しています。さらに、中国が「相互的ではない貿易取り決めを是正し、経済および国家安全保障問題に関する米国の懸念に対処するための重要な措置を取り続ける」ことを期待する文言が含まれています。
一方、中国政府は今回の延長を「6月5日の首脳電話会談で合意した重要なコンセンサスをさらに履行するための措置」と位置付け、世界経済に安定をもたらすものだと表明しています。
米通商代表部(USTR)の元高官で、現在はアジア・ソサエティー政策研究所副所長を務めるウェンディ・カトラー氏は、「ポジティブなニュースだ。ここ数週間で米中が取った措置を含め、双方は今秋の首脳会談の土台となるような何らかの合意に達することができるかどうかを確かめようとしている」と、今回の延長が今後の交渉に繋がる可能性を示唆しました。また、第1次トランプ政権でホワイトハウス通商担当高官を務めたケリー・アン・ショー氏は、トランプ氏が延長に合意する前に、中国にさらなる譲歩を迫った可能性が高いとの見方を示しています。
貿易摩擦の関連動向と今後の課題
関税休戦の延長に加え、米中貿易を巡る具体的な動きも注目されています。トランプ大統領は10日、中国に対し米国産大豆の購入を4倍に増やすことを自身のSNSで要望し、11日にはこの要求を繰り返しませんでしたが、中国側からの具体的な反応が待たれます。
また、米当局者は10日、半導体大手のエヌビディア(NVDA.O)とアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD.O)が、人工知能(AI)に使用される先端半導体の中国向け販売から得る売上高の15%を米政府に支払うことに同意したと明らかにしています。これは、米中間の技術覇権争いが経済的側面にも及んでいることを示すものです。
今回の関税休戦延長は、米中間の貿易交渉に時間を稼ぐ機会を提供しますが、根本的な貿易問題や技術分野での対立は依然として残されています。今後の米中首脳会談や貿易交渉の進展が、世界経済の安定と日本を含む各国のサプライチェーンに大きな影響を与えることになります。