道重さゆみ芸能界引退へ:モーニング娘。新時代を拓いた「異色の存在」の軌跡

元モーニング娘。メンバーの道重さゆみが、2025年8月14日に開催されるLIVE TOUR 2025『SAYUMINGLANDOLL〜SAMSALA〜』最終日をもって芸能界を引退することが明らかになった。2003年1月9日、わずか13歳でモーニング娘。第6期メンバーとしてデビューした道重は、同期の田中れいなと共にグループ初の「平成生まれ」メンバーとして注目を集め、紅白歌合戦にも平成生まれアイドルとして初めて出場した。エンターテインメントの発信ツールが進化し、グループアイドルの価値観が変容する激動の時代において、道重は新たな「kawaii」文化の活路を見出していった。彼女の芸能界引退は、ある時代の幕引きを象徴する出来事として、多くのファンに寂寥感を与えている。

道重さゆみ、2014年1月撮影時の写真。モーニング娘。時代を代表するアイドルの姿。道重さゆみ、2014年1月撮影時の写真。モーニング娘。時代を代表するアイドルの姿。

波乱の「LOVEオーディション2002」:感情を見せない異色の6期生

道重さゆみが参加した「モーニング娘。LOVEオーディション2002」の最終審査は、その全貌が地上波で公開され、多くの視聴者が固唾を飲んで見守った。従来の熱気溢れるオーディションとは一線を画す意味で、非常に見応えのある展開だったと記憶されている。道重、田中れいな、亀井絵里の3候補生は、全員が共通して極めて反応が薄く、表情の変化に乏しかった。何を問われても返事をせず、3人揃って合格を言い渡された瞬間も、一切笑顔を見せない。これほどまでに冷静沈着な、あるいは感情表現が控えめな合格発表は前代未後にも例がなく、当時から「問題児」と目されていたのは明らかだった。初の平成生まれということもあり、「今の若い世代は皆こんな感じなのか」と、新人類に驚く世代間の普遍的な反応を引き出した。

「音程の存在を知らなかった」:純真な勘違いが光る才能へ

特に印象的だったのは、課題曲「Do it! Now」や「赤いフリージア」を「明るいお経のように」歌い、ダンスも形になっていないにも関わらず、真っ黒な髪と大きな瞳で異様なインパクトを放った少女、道重さゆみだった。誰よりも何もできていなかったにもかかわらず、昭和の映画女優を彷彿とさせる不思議な貫禄をまとっていた。道重さゆみ自身、2018年の「Woman type」のインタビューで当時の自身を振り返り、次のように語っている。

「当時は歌とダンスが苦手だってことを自覚していなくて。私、オーディションを受けるまで音程の存在を知らなかったんです(笑)。それなのに、すぐにテレビで観ていたキラキラの世界の一員になれると思っていたし、実際にモーニング娘。になれたことで『私も歌とダンスが得意なんだ』って勘違いしていました」

スタッフや既存メンバーが不安を覚える中でも、楽しそうに「いいね、OK」と全員採用を決定したプロデューサーつんく♂の先見の明は、まさに驚くべきものだったと言えよう。

結び

芸能界に飛び込んだ当初、その「問題児」ぶりと、歌やダンスへの認識の甘さで周囲を驚かせた道重さゆみ。しかし、彼女は時代と共に進化するアイドル像の中で、独自の「かわいさ」と「存在感」を確立し、モーニング娘。の歴史に新たなページを刻んだ。その個性と純真さ、そしてプロデューサーの慧眼が結実し、彼女は「平成生まれ」の先駆者として、また「kawaii」文化の牽引者として、日本のエンターテインメント界に多大な影響を与えてきた。彼女の引退は、単なる一アイドルの節目ではなく、変化し続ける時代の潮流の中で築き上げられた、唯一無二の軌跡の終焉を意味する。

参考資料

  • 文春オンライン (2025年8月14日). 「道重さゆみが芸能界引退へ」.
  • Yahoo!ニュース (2025年8月14日). 「道重さゆみ芸能界引退」.
  • Woman-Type (2018年). 『モーニング娘。OG道重さゆみ「全ての努力が報われるわけじゃない。でも、やって良かったと思う時はいつかくる」』.